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女たらし?


私は再びアレンの姿で社交界へ戻った。

クライド様が行なったイヴリーラの事件の火消しは上手く行ったようで、誰かが何かを聞いてくる様子は無かった。

むしろ話題に出さないように気を使ってくれた。

早速クライド様に呼び出され、人目があまり無い場所へ。


「マリーシャは今日決行するから」


言われて目を見開く。


「アレンが社交界に馴染んでからと聞いていましたが」

「事情が変わった。早めに終わらせたい」

「何故です?」


クライド様は何も無い空間を静かに睨んだ。


「あいつが帰って来る」


言った後、三日月を作って笑う。

何故か背筋が冷たくなった。


「ヴィクトルの謹慎が解けて帰って来るのですか」

「そ。近々ね」


情報元はマリーシャ。

彼女は完全にヴィクトルと切れてはいるがヴィクトルに傾倒している友人が居るのだろう、そこからの情報でスラッドリー家の動向とも一致している事から信憑性は高いと踏んでいる。

ヴィクトルは変に勘の鋭い奴で、アレンがアイリーンだと見抜かれる可能性も全くないとは言えないためクライド様は計画を早めたようだった。


「マリーシャを物置部屋に呼び出そうと思っている。ヘイレドには許可を貰っている」


ヘイレド様はマリーシャの婚約者だ。

クライド様はマリーシャから迫られていて困っている。やめるように言うため呼び出すから一緒に説得してくれないかとヘイレド様に伝えているらしい。


「僕は準備するから。出来たら呼ぶね」


クライド様が足早に去って行くのを見届けた後、自分も会場の輪の中へ戻る。

腫れものでも触るような人の視線が気になって壁を背に立った。

少しだけ気を抜いていると、正面から見知った人物が近付いてくるのを確認した。


「アレン君」

「イネイン様、お久しぶりです」


イヴリーラの婚約者、イネイン様だった。

あれだけの事があったのに、もう社交界に出られているのか。


「あの騒動以来ですね」


小声で言うと、イネイン様は寂しそうな表情を浮かべた。


「今日は謝罪と礼が言いたくて挨拶に来たんだ」

「謝罪?」


イネイン様はゆっくりと頭を下げた。


「イヴリーラの事、悪かったと思っている。元はと言えば俺があいつの気持ちを聞いて来てくれと言ったのが始まりだったと、思い出して」

「こんな事で頭を下げないで下さい。ボクも悪かった点があったかも知れません」


本当はイヴリーラの事を口説いていただなんて、お優しいイネイン様は思いもしないのだろう。

私の復讐にただ巻き込まれただけなのに。


「アレン君が悪い事は何一つ無い、悪いのはあの女だけだ。そう思おう」

「……はい」

「それから……ありがとう。変な女と結婚せずに済んだよ」


力無くイネイン様は微笑んだ。

騒動以来、相当ゴタゴタしたのだろう。苦労が滲む表情だった。


「ボクはイネイン様の婚約を滅茶苦茶にしたのです。お礼を言われる事は何も……」

「結婚せずに済んで良かったと言える理由が分からないのか?」


無言で少しだけ頷く。

ただ心の赴くままにあの女を不幸にした。

私が何もしなければ二人は結婚して幸せになれていたのかも知れないのに。


「結婚していたら今以上に苦労しただろう。浮気なんか平気でする上に簡単に男と寝るだろう」


イヴリーラの性格上、浮気される可能性は高い。

甘い言葉を囁く男性に簡単になびくのだから。


「そのうちに子供が出来るだろう。その子供は、はたして俺の子なのだろうか」


俯いていた顔を上げた。


「家を乗っ取られずに済んだ、と言えばいいかな。血の繋がった子供に跡を継がせたいものだ」


私は自分をただの復讐者だと思っていた。

復讐とは悪い事だ。人一人を陥れるのだから。褒められた事では無いはずだ。

けれど復讐が終わり、罵られる事はあってもまさか感謝されるとは。

イネイン様は未来に想定できた最悪の出来事を回避できたと、私に感謝している。


「今度は素敵な人と婚約して下さい」


笑顔で返すと、まずは恋人からだなとイネイン様は呟いた。


「何か困っている事は無いか? 力になる」

「そうですね……最近のマリーシャはどうしていましたか?」

「マリーシャ? ああ、クライド様か。仲が良いな」


アレンとクライド様は一緒にいる事が多い。

それを周りは仲が良い、と解釈しているようだ。


「幾度となくマリーシャが迫っているのを見たよ。クライド様は困っている雰囲気だったな」


はたから見ると困っているように見えるのか。

極度の女嫌いがマリーシャを口説いているなんて思えないのかもしれないが。


「本日、クライド様がマリーシャに釘を刺すと仰られていました」

「付き纏われているからか?」

「マリーシャには婚約者が居ますから。面倒になる前にと」

「そうか……ステリナに裸で迫られたのはいつだったか……今回はすんなり行けば良いな」

「そうですね。祈るばかりです」


心にも無い事を言って、心の中で笑う。

色んな所を引っ掻き回して、自滅してもらわないと。

でないと切り落とされた髪が泣くわ。

けれど不安もある。

クライド様は前回の復讐で相手を裸にしていた。

完全にやり過ぎだと言ったが……聞き入れてくれただろうか。


「では、アレン君。また」

「はい。また」


イネイン様と別れ、笑顔で軽く手を振った。

クライド様の準備はまだだろうか。

そわそわしていると心配顔のキャロル様に声をかけられた。


「アレン様」

「キャロル様。ご機嫌いかがですか」


腕を掴まれ少々乱暴に引っ張られた。

ちょっと痛い。


「どれだけ心配したと思っているの」

「それは……すみません。兄上から説明は……」

「あったわ。あったけど!」


キャロル様は私よりも背が低い。

なので必然的に下から睨みつけられる。


「心配だったの。あんな事があって……とても怖かったのは想像しなくても分かるから……」

「すみません。ご心配をおかけして……」

「いいのよ。元気そうで良かったわ、アレン様」


安心したように笑うキャロル様に胸を撫で下ろす。

するとキャロル様は私の耳元に顔を寄せ、口元を手で隠し囁いた。


「クライド様から伝言よ」


うるさい会場内。聞き洩らしが無いように集中する。


「ヘイレド様と合流し、少し時間をおいて来るように」


そう言ってキャロル様は離れた。


「それだけですか」

「そうよ。場所も何も仰られなかったわ」

「分かりました、ありがとうございます」


場所は物置部屋だって言っていた。

改めて言う必要はないし、キャロル様を極力巻き込みたくない。


「……また何かするの?」

「はい。騒ぎになるかも知れないです」

「そう……」


目を伏せ、寂しそうな表情をするキャロル様にそっと近づく。


「どうかそのような顔をなさらないで下さい」

「でも……」

「キャロル様には優しい笑顔が似合います。すぐに終わりますから、今だけ目を閉じていて下さい……」


令嬢を落とす際の癖で、思わずキャロル様の頬に指を滑らせた。

驚いたキャロル様は私を軽く突き飛ばした。


「何をするの!」

「あっ、申し訳ありません!」

「もう……!」


顔をほんのり赤くして怒るキャロル様に頭を下げる。

普通婚約者が居る令嬢は迫られてもこんな風に拒否するよね……

あの三人がおかしいのだ。


「本当に、お兄様そっくりね」

「良く言われます」

「ふふ、婚約者が居なかったら狙ってたかもね」

「えっ」


笑いながらキャロル様は軽い足取りで離れていく。

その後を追いかける。


「どういう意味ですか」

「婚約者が居なかったら、恋人になってあげてもいいわよってこと」

「えええっ、ボクはその……」


性別が、とゴニョゴニョ言うと、


「女性同士の恋愛って意外とあるのよ?」


同性で気が知れていて、友人から恋愛になる事も多いと語られた。

う~ん……男装しているけど、女性と付き合おうとは思えないな。


「あなたに触られた時、不覚にもドキッとしてしまったのよ」

「そ、そうなんですか」

「あなたが男だったら相当な女たらしになっていたでしょうね」


私が男だったら、女たらしに……?

有り得た、けれど有り得ない話。


「有り得ないです! ボクは女性に一途です! 兄上がそうですから!」

「そう? ならそう言う事にしておこうかしら? 可愛い弟君」


クスクス笑うキャロル様は口が達者だ。

下手に戦いを挑まない方が賢明だ。


「キャロル様、ボクはこれで」

「気を付けてね」


別の方向に舵を切る。

取り敢えず、ヘイレド様を探さないと。


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