清峰高校生徒会
あれから私と咲良は他愛のない話をしながら生徒会室に向かっていた。
「ふわぁ……朝辛い」
「ちょっと花音しっかりしなよ」
「咲良は朝だけど元気そうだね」
「まあ私は朝型だからね〜」
「へぇ……羨ましいな」
「そう? でも夜はめちゃくちゃ眠くなるから面白いテレビ番組が遅くまでやってると大抵最後まで見れないんだよ」
「ああ……それは辛いね」
「でしょ〜」
そして生徒会室のドアの前に到着。ドアノブを捻って中に入ると、少しばかり効いた暖房の熱気がむわりと顔を撫でる。
「って……うわぁぁぁぁ!!」
「どうしたのよ花音、そんな大声出してって……えええ!!!?」
「「な、何で………」」
「「会長が居るんですかっ!!!!」」
「僕がここにいちゃ駄目なの……? じゃあ今すぐにでも帰るけど」
「いやいや……ちょっと待って下さい! そういうことじゃなくて……」
「会長が生徒会室に居ることが珍しい上に、それもこんな朝早くに来てるですよ。それは驚かないわけがないじゃないですか!?」
「何その常識……初めて聞いたよ。まあ僕だってたまには真面目に仕事をしたくなる時があるんだよ」
「「嘘だっ!!」」
「おい……」
そうジト目で此方を睨めつける会長。
「はぁ…。まあそんな訳もなく、ただ真面目な妹に仕事しろって連れ出されただけだよ。……それにしてもこんな早い時間に出さなくてもよかろうに」
「ああ……会長の妹さん今年入学するんでしたっけ?」
「どんな妹さんなんですか?」
「リア充」
「へ?」
「リア充……僕と本当に血の繋がっているのか怪しいレベルのリア充。僕と違って友達多いし、コミュ力高いし、可愛いし、いい匂いするし、可愛いし、可愛いし……」
「は、はははは……」
「でも会長だって凄い美人じゃないですか」
「はいはい……お世辞はいいから。どうせ僕なんて見た目も良くないし、痩せっぽっちのチビの貧乳だよ……気にしてないし」
そう言って家から持ってきたのだろうか、瓶に入った牛乳をラッパ飲みする彼女。
朝日が窓に差し込み清静な雰囲気に包まれた生徒会室。そんな生徒会室の一番奥に置いてある机は代々、生徒会長が使ってきた机。
そのある種の荘厳さを感じられる机に肘を載せ頬杖を付きながら白衣を着て片手で携帯ゲーム機をいじって私達と話しているのが清峰高校第二十七代生徒会長 赤松 琴理だ。
寝ぼけ眼の眼に、艷やかな黒髪、北国に降り積もる雪のように白い頬、北国の雪原のような胸…。……なんだか寒気がしたからこれ以上はやめておこう。
かなりの美人なのに会長は異常に自己評価が低い。さっきの発言も嫌味とか謙遜ではなく本気で言ってるのだ。
彼女はこう言われる 清峰高校史上最高の生徒会長と。
たがそれと同時に彼女は同時にこうも言われる 清峰高校史上最悪の生徒会長とも。
最高と言われる所以はこう。 彼女は去年から生徒会長を務めていて、そして就任時から様々な生徒の声に寄り添った改革を進めてきた、それも誰かの為の改革でなく皆の為の改革を。間違いなく彼女の就任時からこの学校は良くなったと言えるだろう。
最悪と呼ばれる所以はこう。 まず彼女はとにかく省エネ主義で自分の分、つまり教師達との折衝と企画立案の仕事以外は全くしない。
だから生徒会の活動がそれ以外の会議や雑務がメインの時は生徒会室に来ないし、生徒会長の挨拶も全部副会長に任せている。
…まあ会議の内容とかはちゃんと把握はしているらしいし、雑務も結構少ないから残りの三人でなんとかなるんだけどね。
後は彼女自身のやらかしも原因にある。代表的なのは清峰高校総巨乳化事件。
彼女は科学部(一人しかいない)の部長も兼任していて、放課後はいつもその部室で遊んでいるか何やら怪しいものを発明していたりする。(だから生徒会でもし何かあっても直ぐに会長を呼べる)
そこで彼女は巨乳スプレーという噴射すると遺伝子的な何らかの変化が生じて巨乳になるというスプレーを作ろうとしていたらしいが、その途中で失敗して巨乳ガス(と後から命名された)が校内中に散布され、会長以外の女子が全員巨乳化したという事件だ。
一日で皆元通りになったので事なきを得たが、大きな騒ぎを巻き起こした事は事実だ。 後はその日から3〜4日間会長が寝込んだらしいが……な、何でだろうね?
「はぁ……。どうせあいつ生徒会に入ってくるだろうし……サボれなくなるし面倒だな」
「え〜妹さん入ってくるんですか?」
「中学で生徒会長やってたし、あいつも高校入ったら生徒会入って僕の事監視するとか言ってたし」
「へえ……楽しみです!」
「お前たち二人とは気が合いそうだな……まあ仲良くしてやってくれ」
「は〜い」
「というか結構会長ってシスコン入ってますよね」
「そ、そんな訳ないだろ! ふぅ……勘違いも甚だしい」
「じゃあ嫌いなんですか?」
「そ、そこまでは言ってないでしょ……普通だよ、普通。好きでも嫌いでもない」
「へぇ……」
「へぇ……」
「何その眼……文句あるんだったら言いなよ」
「「いや……会長ってやっぱりシスコンだなって」」
「おいおらチオアセトンぶっかけるぞ」
ガチャ
「今日は賑やかだね……おはよう花音、咲良……ってあれ? 琴ちゃんも来てるの?」
会長いじりを楽しんでいると、生徒会副会長である 北条 燐先輩が生徒会室に入ってきた。
「琴ちゃんって呼ぶな……チオアセトンぶっかけるぞ」
目元の泣きぼくろが特徴的なクール系の美少女で、頭も良く、優しく、面倒見もよく巨乳で巨乳な頼れる副会長で昴くんの幼馴染らしい。
会長が居ない間の生徒会を取り仕切り、生徒会長の挨拶も代わりに行うことから彼女は裏生徒会長とか陰の実力者とか、誰かと違って巨乳な副会長と呼ばれている。
私も生徒会に入ったばかりの頃に燐先輩にいろいろ教わったりしていた。
清峰高校生徒会がこのように女子ばかりになっているのは理由があって、それは初代の生徒会メンバーが偶然女子ばかりだったらしい。
それで男子がそのような環境の生徒会に入るのを尻込みして、そして段々と男子が入りにくい環境が出来上がって今に至るという訳だ。
だから力仕事で男手が必要な時は生徒会メンバーの男友達や彼氏がその仕事を務める事が多い。で今はその役割は昴くんが担っているという訳だ。
まあ昴くんは力仕事だけじゃなくて雑務も手伝ったりしているから准生徒会メンバーみたいなのものだけれど。
…って昴くんはあくまで男友達であって彼氏ではまだないからね。いや私としては別に昴くんが私の彼氏だと見られることに関してはやぶさかでもな(以下省略)
「さてと……そろそろ準備に向かいますか。行くよ花音、咲良、燐」
「「「はい!」」」
そう言って携帯ゲーム機の電源を消して立ち上がる彼女。白衣の裾がふわりと舞った。
面倒くさがりやだけど実は私達の事をよく見ている会長
優しくて頼りになる副会長
明るくて話の合う同級生の会計
やっぱり私はこの生徒会が大好きだなと思いながら新学期初めての仕事に向かっていった。