小動物系後輩との出会い 後編
有楽ちゃんは最初は大人しい娘かなと思っていたがそうではなかった。とても人懐っこくてよく笑う、そんな女の子だった。そして人と距離を詰めるのが凄く上手な娘で、気がつけば名前呼びとかされていた。
彼女の教室までの通り道にある施設だけを紹介しようと思っていたが、彼女の希望で校内の殆どの施設を説明して回るという事になった。
「へえ……ここが食堂ですか? すごい綺麗ですね!」
「なんか俺が入学式した何年か前に改修されたらしい、でそれと同時にメニューとかも豊富になったらしくてめっちゃメニューある、しかもめっちゃ美味しい」
「そうなんですか……先輩もよく使うんですか?」
「あんま使わないかな……かなり混むし」
「じゃあ何時もはどうしてるんですか?」
「俺、何時も妹の分の弁当作ってるんだよ。だからそのついでに自分のもって感じかな」
「えっ!? 先輩凄いですねっ!」
「まあ慣れればそんな大変な事じゃないからな。……後、妹も今日この学校に入学してくるからもし良かったら仲良くしてやってくれ」
「へえ……そうなんですか。勿論ですよっ! もし同じクラスだったら話しかけてみます!」
俺の妹はどちらかと言えば人付き合いが得意じゃないほうだから、コミュ力の高そうでそして優しそうな有楽と友達になれたならお兄ちゃん凄く安心だし、有楽をきっかけにして他の女の子との繋がりも出来たら万々歳だ。
「ありがとうな」
「ふぇ///……」
「あっ……すまん」
つい妹にやっているような感覚で頭を撫でてしまった。……ああやべえ嫌われたかも。と思ったがやっぱり彼女は優しくて。
「い、いえ……大丈夫です」
「そ、そうか……」
そこにはちょっとだけ気まずい雰囲気と、少しだけ甘い雰囲気が混在していた。
そして案内を終えて、俺たちは中庭に居る。中庭に置いてある自販機はある意味うちの学校の特色で。
「……何かいっぱい飲み物ありますね。聞いたことのない名前の飲み物もありますし」
「そうだな……何かうちの学校、結構飲み物充実しているんだよな」
そう……うちの学校、つまり清峰高校は自販機の飲み物が充実している事で、この辺の地域の学校の中では有名である。
どのくらい有名かと言えば、この地域の他の学校の高校生に清峰高校に所属していると言うと、ああ自販機の学校ねって80%の確率(俺調べ)で返されるレベルである。
「先輩のおすすめは何ですか?」
「俺がよく飲んでるのはこれかな」
「ブルーベリーサイダー……ですか? 結構美味しそうですね」
「飲むか?」
「飲みますって……え?」
そう彼女が返事した刹那、お金を入れて自販機のボタンを押して自分の分の飲み物と彼女の分の飲み物……つまりブルーベリーサイダーを買った。自販機からゴトンと小気味のいい音が漏れ出た。
「はいよ」
「あ、ありがとうございます……えとお金払いますから」
「いいよいいよ……俺の奢りで」
「え……でも悪いですし」
「入学祝いって事でどうかな?」
「……分かりました、じゃあありがたく頂きますね」
「どうぞ」
そして俺と有楽ちゃんは二人でベンチに腰掛けて買った飲み物を飲む。
「わ……美味しいですね!」
「だろ。あんまり他の人は飲んでないんだけどめっちゃ美味しいんだよな」
「ふふ……じゃあこれは先輩と私だけの秘密のものってことですね?」
「いやそれは大袈裟というか……少ないけど他の人も飲んでるし」
や、やっべぇ……。危うく惚れそうになりかけたぜ。それ程彼女がさっき浮かべたちょっとの恥ずかしさを混ぜた笑顔は破壊力抜群で。こういう時は自分の大好きな花音の顔を……うう罪悪感が増してきた。すんません仕事頑張っている時にこんな体たらくで。
「どうしたんですか、先輩?」
「いや……なんでもない」
「ふふ……変ですね。そう言えば先輩がいま飲んでるのって何ですか?」
「青林檎ティー」
「そ、そんなのもあるんですか?」
「これも中々美味いぞ。一口飲んでみるか?」←妹がいてそういう事に慣れているので何も考えずに言ってる
「ふぇっ……? え、え、えとっ……あのわざとではないですよね?」
「何が?」
「い、いや何でもないです……青林檎ティーの方は大丈夫です」
「そうか、遠慮しなくていいのに」
「そういう問題じゃないです!」
「おう……」
何故だか分からないが怒らせてしまったらしい。うんやっぱりオンナゴコロは難ちい。
「そろそろ行こうか、有楽ちゃん」
外に耳を傾ければ、生徒の喧騒が大きくなっているのが分かる。多くの人が校舎内に入りはじめているようであり、時計を見れば案内し始めてから結構な時間が経っていた。隣の有楽ちゃんを見ればもう飲み終わっているようなのでそう声をかけると。
「あっ……あのもし良かったらライン交換してくれませんか?」
「え……?」
「嫌だったらいいんですけど……」
そう言って悲しそうな顔をする彼女。俺はそれを見て慌てて。
「い、いや……今のは突然言われて驚いただけだから。お、俺ので良かったら全然」
「いいんですか!? じゃあ早くしましょう!」
そうしてライン交換が終わりラインのホーム写真を見ると、中学の時の今より少し幼い彼女の姿が写っていて。
「ちょっ……ちょっと見ないでください!!」
「いやそう言われても……」
「恥ずかしいですから!」
「そうか?俺は凄く可愛いと思うけど」
まあ今も凄く可愛いけど、これはこれでってね。
「なっ///……そ、そういう問題じゃないんですっ!」
「……そうなのか?」
「そうです!」
再びラインに画面を戻すとホーム写真は可愛いぬいぐるみが写されたそれになっていた。
「後……ちゃんって付けるのやめて欲しいです」
「え?」
「子供扱いされているみたいで……いやです」
「分かった有楽……これでいいかな?」
「はい!」
彼女はそう言って今日一番の輝いた笑みを浮かべた。
ちなみにその後俺は責任をもって彼女を彼女のクラスに送り届けたとさ。