クラス発表
久しぶりの一人での登校にもの寂しさを感じ、それを紛らわせる為にイヤホンを耳に突っ込んで学校までの道を歩いていると、その途中の曲がり角で彼女が腕を組みながら待っていた。
イヤホンを外す。あれっ…なんか不機嫌そう?まあ仕方ないか。事故とはいえ異性にパンツを見られたのだ、そういう感情になるのも頷ける。
「待っててくれたのか」
「……まあね」
「さっきはすまなかったな」
「……別に気にしてない」
「そうか……」
それはそれで男としては複雑な心境なんですが。でも気にしていないと言っておきながら滅茶苦茶不機嫌そうなんですけど。
「はぁ……」
そう彼女は大きな溜息をつくと呆れた表情で。
「本当に昴くんって色々と出来るけど、女心を理解する能力に関しては壊滅的だよね」
「そ……そうか?」
これでも妹が居るから人よりはそういう能力に自信はあったんだけどな。……まさか実は妹に色々と我慢を強いてたとかそういうことないよな。……やばい有り得そうな気がしてきた。
「本当にそんなんじゃ他の女の子にモテないよ」
「う……」
別に花音以外にモテたいという願望はないのだが想い人にそう直接言われると少し傷ついてしまう。
「まあでも昴くんの事を本当に好きな人が出来たら、そんな事じゃ嫌いにならないと思うから安心しなよ」
「そうなのか?」
「そう思うよ」
そう断言する彼女。その彼女の言葉はやけに自信満々で疑問を覚えた俺はその事に関して問うた。
「どうしてそう思うんだ?」
「それは……教えないっ!」
そう言ってまた駆け出していく彼女。……ええ!? 彼女の行動が理解出来ず当惑する俺。やっぱりオンナゴコロってやつは難しい。
でもまあ良いか。だって彼女の顔に笑顔が浮かんでいるから。彼女には不機嫌そうな顔よりも笑顔が似合うのだから。彼女が楽しそうなら俺もそれでいいし楽しくなる。
「置いてくよ〜」
「ちょっと待てって!」
振り返る彼女の顔には満開に咲く桜のような笑顔が浮かんでいた。
それから二人で横に並んで他愛のない話をしながら学校に向かう。そして気がつけば俺達の通う学校である私立清峰高校の校舎が見えてきた。
清峰高校は比較的最近に出来た高校でありそのためあって校舎の外観も未だに綺麗だ。耳をすませばもうすぐ大会を迎える野球部の掛け声や金属バットの音が鼓膜を揺らす。
「ああ…やばい緊張してきた」
そう胸を抑えながら言う彼女。彼女の緊張の原因はクラス発表という、学校生活のイベントの中ではそれなりに大きなものだ。そしてこれからの一年間を決定づけるものであると言っても過言ではないだろう。
だから生徒達は程度の差こそあれクラス分けに対して期待し、そして緊張するのだ。で勿論俺たちもその例に漏れず。
「ああ……昴くんと一緒のクラスになれますように」
そう目を瞑って手を組み合わせ祈るようにする彼女。その様子はとても切実で、それ程俺と一緒のクラスになりたがっているのだと分かって……正直滅茶苦茶嬉しかった。
「俺も花音と一緒のクラスになれるといいな」
「昴くんもそう思ってるの?」
「当たり前だろ」
「ふ〜ん……へぇ」
「……何だよ?」
「いや〜何でもないよ」
そんなやり取りをしているうちにクラス分けが貼られている掲示板の前に到着した。
もう少し時間が経てばこの掲示板の前はクラス分けの結果を見ようとする生徒達でごった返すのであろうが俺たちは早めに来ているので周りには人が居らず、直ぐに結果を知ることが出来た。
「あっ……」
「これって……」
「や、やった……!!」
「うぉぉっ!」
彼女は感極まった様子でなんと俺に抱きついてきた。彼女の身体の柔らかさや暖かさがダイレクトに感じられ。頭の名がオーバーヒート状態。あ、当たってるよお。
いや…だって仕方がないじゃないか好きな人に抱きつかれているのだもの すばる
頭の中に相田○つをが出現したところで。彼女もようやく今の状況に気づいたようで。
「あ……! ご、ごめん……」
「いや……寧ろ俺としては役得だったというか……」
「そ……そうなの?」
「うん……そうだ」
「……昴くんの変態」
「うぐっ……」
彼女はそんな俺の様子にクスクスと笑った後。
「今年も一緒のクラスだったね」
「そうだな…」
「もう一回確認してくれない?」
「ちゃんと一緒のクラスになってるぞ」
「そう……良かった」
彼女は心の底から安堵したような表情を浮かべた。
「俺も……良かった」
隣の花音の緊張が凄かったから平静で居られたが、実を言うと俺も滅茶苦茶に緊張していた。だからこの結果はとても嬉しかった。そしてこれからの学校生活も大いに充実したものとなるだろうと思えた。
二人は向き合う。そして。
「じゃあ……」
「じゃあ……」
「「これからも一年宜しくお願いします!!」」
春の日差しが二人を柔らかく包んでいた。