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もう一つのプロローグ

(ああ〜!!!! もう!!!! 穴があったら入りたいよぉ!!!)

 頬が熱く息が荒くなり心臓の鼓動がやけに早まっているのはさっきまで走っていたからだけではない。

  

 落ち着く為に深呼吸。入ってくる風は酷く冷たく感じられた。


「ふぅ……」

 

 春の朝の静謐。どこかで鳥が高らかに歌う声が耳に響く。


(ああ……もう恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい!! ああああ!!!)


 もう頭の中がめちゃくちゃの支離滅裂。ここが自室だとしたらベットの上で悶えてバタバタしてお母さんに怒られる流れだ。


 恋愛上級者ぶって昴くんをからかったまではいいものの、恥ずかしさの余りに逃げ出してしまった彼氏いない歴=年齢の女。ふっ……笑えばいいと思うよ。


 というか何よ遅刻しそうだからって。言い訳するにしてももっとマシなのあったでしょ! 時間めちゃくちゃ余裕あるし。絶対に動揺しているの昴くんにバレちゃったよ……。


「やっぱ昴くんの事好きなのかなあ……」


 そう呟いてみて、そしてその刹那、より一層熱くなった頬が答えを示していた。


「まあ……そうだよね」


 さっき昴くんに言ったことは本当に私が思っていることだ。優しくて、意外と頭が良くて、運動も出来て、そして自分では気づいてはいないみたいだけど意外と格好いいし。


 それだけじゃない。二人で過ごした一年間、その中で彼の色々な所を知った。意外と可愛いものが好きなところ、辛いものが苦手なところ、妹さんの事をちょっと私が嫉妬しちゃうくらいに構うところ。


 でも……足りない。もっと知りたい。彼の色々なところを、まだ私が見れていないところを。


 そして知ってほしい、私の事を。もっと見てほしいんだ。


(でもなあ……)


 その私の願望を叶える為の手段は分かっている。分かっているんだけど……。


 それで簡単に実行に移せたならば恋愛はドラマや漫画の題材にはなっていない。本当に凄いよ世の中のお父さん、お母さん達。


 この世に100%は存在しない。いくら今の関係が良いとしても確実に告白が成功するとは限らないのだ。


『ごめん友達としか見られないよ……』


 それは良く告白を断る時に使われる定型文であるが、その言葉がまるっきり嘘と言う訳ではないのだろうと思う。


 告白してもし…あんまり考えたくないけど断られたとしたら、今のように昴くんと軽口を叩きあうような関係は必ず崩れてしまう。告白に失敗して、友達のままで居るということが許されるのはフィクションの世界だけだ。


 平常を薄粧することは出来るだろう。でもどこかに歪みは必ずできて、そしていつかは崩壊する。そもそも平常を装っている時点でその関係は変わっているのだ。


 やっぱりその可能性を考えると竦んでしまう。今のぬるま湯のような関係は心地よすぎるから。


 そんな風に思考の海に沈んでいる刹那。


 風がぴゅうと吹いた。それと同時に反射的にスカートの裾を押さえる。


「あぁぁぁ……////」

  

 それと同時に忘れようとしていた、恥ずかしすぎる出来事がフラッシュバック。


 よりによって一番好きな人にパ、パンツを見られたのだ。あぁぁぁぁぁ!!!!


 さっきとは少し違うベクトルの恥ずかしさが猛烈に襲ってくる。


 と、というか昴くんも馬鹿じゃないの。普通は顔背けるとか誤魔化すとかそういう反応するだろうに、なんでよりによってサムズアップしてるのよ!

 

 あっ……分かった。余りにも私のパンツが魅力的……って違ぁぁぁう!! 阿呆でしょ私!


「でもそれでも好きなんだよなぁ……」


 本当に恋って面倒くさい……。面倒くさいけど……でもしてしまったのだからしょうがない。


「まずは待っててあげますか」


 先に行ってしまったけど。でも多分昴くん、一人で登校するの寂しがっているだろうし。まあ私も一人で登校するのは……少し、いや結構寂しいし。


 そう言えばと思い出す。気がつけば当たり前の事となっていたが、昴くんと二人で登校するようになって半年以上経っていた。二人で登校するのが当たり前となって、そうでないことが当たり前で無くなっていた。


 中学の時と入学当初の時、一人で登校していた時間は半年よりも遥かに長いのに一瞬で上塗りされてしまった。すっかりと変えられてしまった。


「ふっふ〜ん……」


 自然と鼻唄が漏れていた。手を伸ばす。桜の花びらが掌にふんわりと舞い降りた。

 

 













 


 



 

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