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プロローグ

桜の花びらは優雅に空に舞い、踊り疲れた花びら達は地面に見るも鮮やかな桃色の絨毯を形成する。


 そんな暖かな春の陽気の中、俺はそんな桜にも負けない程可愛い女の子と学校に向かっていた。


「いやー久しぶりに学校に行くのは辛いねー」


 そう言いながら、全くそう思ってなさそうな朗らかな笑顔を浮かべるのは 及川 花音(かのん)。生徒会の書紀をやっており…実を言うと俺の想い人だ。


「生徒会で春休み中も来てたんだろ」


「まあそうなんだけどさ……でも生徒会始まる時間って殆ど午後だったし、こんなに早く起きるの久しぶりだから」


「なるほど」


「それより(すばる)くんは春休みどうだった?」


「普通」


「ええー? 普通って何よ普通って!! もっとなんか無かったの? 彼女出来たとか、彼女出来たとか、彼女出来たとか」


「何でそれ限定なんだよ……」


「じゃあ今、昴くん彼女居ないの?」


「今どころかこれまで一度も出来たことないわ」

 

 うっ……なんか自分で言ってて悲しくなってきた。


「へぇ……そうなんだふーん……」


「何だその反応……」


「い、いや何でもない」


 ま、まあ大方。これまで一度も彼女の出来たことのない(笑)俺の事を憐れんでいるんだろうなっ!だ、大丈夫だもん。だって事実だから!……ぐすん


「でも見る目ないなあ他の女の子達」


「へ?」


「だって昴くん優しいし、意外と勉強出来るし、運動神経も悪くないし、顔もよく見れば整っているし」


「……ちょっ……そ、そんな事無いって!」


 も、もうやめて! 昴くんのライフはもうゼロよっ!


 好きな女の子に好意的な感情を抱かれていたこと、それを直接言われたこと、その事に得も言えぬ面映ゆさを感じた。


「もうこうなったら私と付き合っちゃう?」


 風が吹き、桜がふんわり舞った。

 

 そう言う彼女の黒真珠のように透き通った目は潤んでいて、頬は鬼灯のように赤くなっていた。…冗談のはずだけど、でも本気で言ってるように見えてしまうのは多分俺の都合のいい想像だろう。


 ……と思うのだが、やっぱりもしもを期待してしまう俺も居て。


「えっと……」


 ここで適切な言葉を返せるようなコミュ力があったなら、彼女いない歴=年齢にはなっていないのである。


 残されたのは気まずい静寂、まるで時間が止まったように錯覚するが、視界に映る桜は楽しげにワルツを踊り、鼓膜には無邪気にはしゃぐ登校途中の小学生の声が届く。


 ぴゅう…っと風が吹く。桜は空へ跳ね上がる。


「な、な〜んてね……じょっ、冗談だよ……ははは」


 ああ…やっぱり冗談だったんですね。なんか良かったような、やっぱり残念なような。まあでも常識的に考えて想い人(美少女)の方から告白してくれるなんて美味しい展開はラノベとかその辺りでしかお目に書かれないもんな。


「あっ……ち、遅刻しそうだから先行くねっ…じゃあまた学校で」


「えっ? ちょっ……」


 そう駆け出していく彼女。そしてほんの一秒後。


 びゅうと空を切り裂さいてしまうような強い風が、桜を乗せて吹いた。


 そしてスカートさんひらり、パンツさんこんにちは。


 白……か。いいね!


 直ぐにスカートの裾を強く抑えるが、時既に遅し。


 見た? と責めるような視線で問うてくる彼女に俺は……


 全力でサムズアップして、思い切り決め顔を作った。


「す、昴くんのバカぁぁぁぁ!!!!」


 そう大声を出して去っていった。


「はぁ……」

  

 彼女の背中が見えなくなったと同時、俺は息を吐き出した。


 勿論それは溜息では無く、緊張から解き放たれた事でのものだ。


 やはり…想い人の会話は緊張する。無論好きな人との会話は嬉しいけど、でも何気ない一言で彼女に嫌われてしまうのではないかと思うとどうしても緊張してしまう。


 大分女々しいなと自分ながらに苦笑して、でも今更な事かとまた苦笑する。


 だって…去年の4月に恋した女の子に今まで想いを伝えられていないのだから。


 本当に情けないなと自分ながらに思う。でも言い訳をさせて貰うと怖いのだ。


 想い人になんとも思われていないとはっきり言われることが、そして…彼女とのこういった幸せな時間を失うことが。


 想いを伝えれば確実に今の関係は変化する、物凄く良い方と物凄く悪い方の2通りに。


 でもこのままじゃいけないってのは重々承知で。


「彼女の方から告白してくれたらなあ」


 情けなくて女々しいのは十分承知で、そんなことありっこないとは分かっている上で、空に向かってそう独り言を漏らして歩き出す。


 ちなみに時刻は現在、朝7:30 遅刻の心配はまるで無い。

 


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