表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に行ったら世界のすべてが所有物だった!  作者: カビ封じ
一章 ~博愛無き医師達~ 一節『薬盗りの少年』
8/10

三話 病の母親


 ナルに案内されて、ナルと母親の住む家にやってきた私。

 大通りに近い小道の、レンガの建物が立ち並ぶ地区に家はあった。

 町が夕焼けに染まる中、ナルは一軒の家の前で立ち止まり私を見る。


「ここだよ」


 私が頷くのを見たナルは、先に玄関に向う。

 

「ママたたいまー」


 玄関を潜り母親に挨拶をするナル。

 それを追いかける様に玄関を潜ると、薄暗い部屋の中で具合の悪そうな女性がベッドの中に居た。

 家の中にはベッド以外、家具の一つも見当たらない。

 

 ベッドで寝ている女性、あの人が母親さんかな?

 

 ナルと同じ黒髪黒目をした女性は、痛みを堪える様に顔をしかめながら私を見る。

 フードで顔を隠して全身をマントで覆う私は、普通に不審者だろうね。 


「ナル……また誰かに迷惑をかけたんじゃないだろうね……」

 

 苦しそうに声を揺らしながら、そうナルに聞く女性。

 もしかしなくても、ナルが薬を盗んだのはバレてるのかな?

 

 女性の言葉にナルは動揺しながら言う。


「う、うん……でも!この人はママを助けてくれるんだよ!」


 頷く所が凄い素直だと思う。

 ナル程の年頃の子供だったら、言い訳とか普通にするだろうに。

 

 女性は長い黒髪を揺らしながら体を起こし、ベッドに腰掛ける。

 

「で、貴女は?わたしゃ見ての通りでねぇ……おそらく長かないのよ」


 ベッドに腰掛け私を見上げる瞳は疲労が見て取れる。

 ほんとに辛そうだね……

 

 私は姿勢を低くし、女性と目線を合わせる。

 

「こんばんは」


 私が挨拶し一礼すると女性も一礼する。

 

「私の名前は言えませんが、害をなそうとは思ってません」


 私の言葉を静かに聞く女性。

 見定める様に私を見るその瞳は、どこか力強く感じる。


「名乗れないのは心苦しいですが、こちらにも事情があるのです」


 そう言う私に女性はため息をつく。


「……まあ、変な奴だとしても、今のわたしゃ何も出来ないからね……」


 私本人に向かって「変な奴」と言う所を見る限り、女性は私を信用していないみたい。

 でも、それが普通だよね。

 いきなり息子が人を連れてきて、しかもその人は姿を隠し名を名乗らない。

 普通に不審者だよね。


「で、ここに何の用だい……金ならありゃしないよ」


 女性の言葉に私は首を横に振る。

 私は別に何か害を成しに来たわけじゃないよ。


 不審な瞳で見てくる女性を他所に、私は女性の両肩を掴む。

 突然の行動に緊張する女性。

 私は構わず不思議パワーに病気を探る概念を乗せるて、女性に流し込んだ。


 辺りは美しい光に包まれる。

 光が収まると私の頭の中に情報が流れてきた。

 なるほど。

 でもこれって……


 私の頭の中に流れてきた情報。

 それは『毒草を食べた事による中毒症状』と言う内容。

 確かナルの母親は心臓の病と言う話だったはず。


「い、今のは……一体……」

 

 困惑する女性に答える。


「貴女の病気を調べました」


 私の言葉に動揺する女性。


「まさか魔術師様かぇ……?家にはもう、何も払う物など有りはしないよ?」

「何もいりません」


 支払いは要らないと言っても、女性の様子を見る限り信じていないみたい。


「ナル……アンタまた何かしたのかい!?こないだ薬を盗んだばかりなのに、また悪い事したのかい!?」


 母親と思われる女性に睨まれるナル。

 ナルは涙目になりながら俯くだけ。

 凄い剣幕……


「わたしゃそんな風に育てた覚えは無いよ!ああっ……どうしましょう……」


 そう言って頭を抱える女性。

 私が勝手に係わっただけなんだけど……流石にナルが可哀そうかな。

 

 私は女性の肩に手を置いて微笑みかける。


「そうナルを責めないで下さい。ナルが悪い人に暴力を振るわれている所を私が助けたのが始まりですし」


 最初はナルが暴行されていたのを黙っていようかと思ったが、私を信用してもらう為には伝えるしかあるまい。

 女性は私の言葉でナルが暴力を受けていた事を初めて知った様だ。

 驚きながら女性はすぐさまナルを見る。


「アンタどういう事だい!?どこか怪我してるんじゃないだろうね!?」

「沢山怪我したけど、魔術師のおねーちゃんに治して貰った」


 声を荒げる女性だったが、ナルの言葉を聞き女性は私を見た。

 

「済まない……ナルの恩人だったとは……」


 そう言う女性に私は「大丈夫です」と答える。

 誰にだって勘違いは有るさ。

 特に私の外見とか、怪しさ満点じゃないか。

 どちらかと言うと名乗れない私が悪い。


 お二人さんが落ち着いた様なので私は、


「それより貴女の事です」


 と本題に入る。


「私が調べた結果ですが、毒草を食べたと結果が出ました。毒草に心当たりは有りますか?」


 毒草に心辺りが無いか聞かれ、女性は頭を抱えて思い出そうとしている。

 少しの間黙っていた女性だったが、静かに口を開いた。


「もしや……あの食材かぇ?」


 女性は気になる記憶が有るみたい。


「市場の屋台の店主から面白い食材を手に入れたって言っててね。私はそれを買ってスープにしたよ」


 市場の屋台の店主が売っていた食材ね。

 それをスープにして食べたか。

 でも、ナルは食べなかったのかな?ナル自身は中毒にはなってない。


「ナルは食べてないのですか?助けたときはナルに中毒は無かったです」

「嫌いなスープだったから、ナルは一口も付けなかったよ」 


 ナルは子供特有の好き嫌いで中毒を免れたのか。

 幸運な事だなー。


「なるほど……」


 私はそう言うと、もう一度女性の両肩を掴む。

 今度は女性は静かに肩の力を抜き、目を瞑っている。。

 不思議パワーに治療の概念を乗せて、その中の解毒の概念を強くし、不思議パワーを女性の両肩から流し込むと美しい光が辺りを包み込んだ。

 

 光が収まり女性の両肩から手を放す。

 女性は目をゆっくり開いた。


「あら……?痛くない……」

「治りましたよ」


 私がそう告げると、女性は立ち上がり自身の体を隅々まで触りだす。

 

「痛くない……痛くないよ……!」

「ママ治ったの!?すごーい!」


 はしゃぐナルと涙を流しながら喜ぶ女性に私まで笑顔になる。

 いやーよかったよかった!

 

 




 


「ありがとうございます!なんとお礼していいやら……」

「いえ、いいですよ。私が勝手に首を突っ込んだので」


 涙を流しながら感謝の言葉を述べる女性。

 いい事した後の気分はいいものだなー。

 

 母親に抱き着くナルを見ると満足だ。


「まだ名乗ってませんでしたね。わたしゃネネリと申します」


 ナルの母親はネネリと名乗り、私に一礼する。

 

「ホントは私も名乗りたいのですが、事情がありまして……」


 ネネリさんにそう言い私は名乗り返せない事を伝えるが、ネネリさんは首を横に振る。


「いえ、いいのです。魔術師様は色々大変なのでしょう?」


 そう言いネネリさんは優しい笑みで私を見た。

 いえ、やましいとか魔術師だとかは関係ないのです……

 ただ支配主だから皆さんが面白いh……メンドクサイ反応をするだろうから黙っているだけです……

 

 よし!と言うわけで!


「一軒落着ですかn……っ!?」


 一件落着。

 そう言おうとした最中、家の周辺に沢山の足音が近づいてくるのが分かり、玄関を見る。

 ネネリさんもナルを後ろに隠して見て玄関を見ていた。


 やっぱり、そう来なくっちゃ!

 大事件はまだまだ続きそうだね!




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ