表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に行ったら世界のすべてが所有物だった!  作者: カビ封じ
一章 ~博愛無き医師達~ 一節『薬盗りの少年』
7/10

二話 薬盗りの少年

いやー。

日常を書くより、事件書いてるほうが楽しい。


 道行く人に宿の場所を聞いた私は少年を抱えて宿に向かう。

 

 少年に話を聞こうと思ったんだけど、ゆっくり話せる場所はどこかに無いものかと考えたんだよね。

 そしたら、前世の異世界物で主人公達は皆が皆、宿屋で秘密の会話をしていたなーって事を思い出してさ、思い立ったら即行動。

 この町の地区で唯一の宿屋に向かった訳さ。


 道を聞きながら宿を探すこと数十分。

 目的地の宿を見つけてカウンターに向かう。


「らっしゃい」 


 私と抱えた少年を見て不愛想に振る舞うおっさん店主。

 まあ、確かに店主から見たら訳アリな客だから仕方ないか。


 店主に中金貨を渡す。

 不愛想な店主だったが、カウンターに置かれた金貨を見て態度を変え、一番良い部屋に案内すると言い出した。

 やっぱり世の中お金なんだなー。


 小道を進みながら左右に並ぶ宿の部屋を見て回る。

 宿と言っても、この世界の文明力がアレなので、基本的に宿の部屋は全てレンガで出来たプレハブの様な家を横一列に並べただけの部屋だ。

 てか、前世の文明力の常識を通して見たら、少し強制収容所に見えなくもないな……


 店主に案内された先は、並んでいるレンガの建物の中で一番広い部屋の建物。

 八畳程の広さで内装は机と椅子があり、ベッドが一つ。

 

「それではごゆっくり」


 そう言うと店主は「これ以上お前たちには係わらん」と言わんばかりに去っていく。

 薄情者と思わない気もしなくは無いが、これが普通の反応だろうね。

 皆他人に構ってられる程、暇じゃないし力もない。


 気絶した少年を硬そうなリネンのベッドに寝かせて、椅子に座り少年に向かい合う。





 それなりに長い時間が経過した。


「あれ……ここ何処……?」


 天井を眺めながら考え事をしていた私だったが、ベッドで寝ていた少年から声が聞こえて考え事をやめる。


「目が覚めた?」


 私の声を聞いてか、少年の黒い瞳は少し驚いた様な目をしながら、私をみる。


「ここ何処ですか……?貴女だれ……?」

「私の事は置いておくとして」


 私を詮索するなと釘を刺す。

 最初から「私、支配主でーす」って言っても良いのだけど、普通に少年が混乱するよね。

 詮索するなと言われ、困惑した顔の少年は小さく、


「はい……」


 と答える。


 よし、分かれば良いのだよ分かれば。

 てわけで場所と経緯を教えてあげよう。


 困惑の顔をした少年に場所と私の係わった経緯を話す。


「ここは宿だよ。町を歩いていると幼い少年が柄と頭の悪そうな男達に酷い事されてたから、ササっと助太刀したのだよー」

 

 私の話を聞いて少年は自身に起こった事を思い出したようだ。

 俯き怯えた表情になる少年。

 それでも、少年は助けてくれた私に、


「あ……ありがとう……」


 と感謝の言葉を言う位には、落ち着いているようだね。


 少年の黒い髪を撫でる。

 さて、少年も先ほどまでの出来事を思い出した様だし、少年の名前を聞こうかな。


「所で少年、名前は?」


 私の質問に少年は短く、


「ナル」


 と答える。


 なる?ナルって名前なの?念のため聞いておこう。


「ナルって名前なのかな?」

「ナル」


 頷く少年の様子から、この少年はナルって言うらしい。


 流石異世界って名前だね。

 日本で住んでても絶対そういう外国的な名前に会う事は無いと思う。

 しかもマーカスとか西洋的な名前だけど、ナルってどう聞いても西洋の名前には感じないね。


 日本は外国人の観光客は多いけど、観光客に話しかける機会は無いし、皆話しかけようとも思わない。

 だって、言葉が通じないし、自分自身の英語に自信が無い人は絶対話しかけたく無いよね。


 そんな外国感に感動していた私だったが、少年にマントをクイクイ引っ張られている事に気が付き、少年を見る。

 どうした少年ナルよ。

 

「ねぇ、僕なんで怪我してないの?」


 そう言いいながらナルは私をみる。

 おお、そうかそうか。

 確かに君、瀕死だったよね少年ナルよ。

 一度命を諦めたのに、意識が戻ると普通に五体満足でピンピンしてたら、そら不思議に思うか。


「私が癒した」

「え……?」

「私が癒した」

「えっと……」

 

 私が癒した言うと、不思議そうな顔をするナル。

 不思議そうな顔をしたナルは私の体の隅々を見ている。

 

 こら、えっちい事はいけません。

 ナルくんには未だ早いです。

 こんな年齢でマセガキになるのはおねーさん許しませんよ!

 そんな事を考えていたが、どうやらそう言う目で見ていたわけではないようだ。


「もしかして……おねーさん魔術師さんなの!?」


 ナルはそう言うとキラキラした瞳で私を見てくる。

 イヤラシイ目で私を見ていたと勘違いしていたけど、そんな事あるわけないよね。

 こんな少年に性教育なんて未だ早すぎるよ。

 

 純粋な瞳で私を見てくるナル。

 そんなナルをケダモノの様に思っていた私を殴りたい。

 

「んー……似たようなものかなー」


 そう答える私に、


「すごーい!」


 と興奮した様子のナルに、私の中の穢れを見た気がする。

 少し沈む私を他所にナルは私を尊敬の眼差しで見ていて、凄く楽しそうにしている。


 と言うか、居るのか……魔術師。

 ファンタジーの醍醐味だけど、この世界には居ないと思っていたよ。

 

 っと。

 色々ズレたから、そろそろ本題を聞こう。


「ねえ、あの三人の男の人達といたじゃない?何かあったの?」


 私がそう聞くと、ナルは急に静かになる。

 俯くナルは暫く無言だったが、次第に事情を話し始めた。


「ママがね……病気になったんだ……」


 そう続けるナルは何処か罪悪感に押されている様だ。


「物を盗んじゃ駄目なのは知ってる。いけない事だって分かってる。でも、ママはお医者さんに体を見てもらったら『しんさつりょう』で貯金が全て無くなったんだ……」


 ナルは目に涙を貯めながら「だから」と続ける。


「お医者さんが言ったお薬は高かったから、家具を売ったし服も売った。でもお薬を買うには足りなかった……!だから……!目の前に薬屋さんの屋台を見たとき……!」


 うーん。

 診察料が高かったのか。

 で、薬を買うお金が無く、か。


 少年の話を聞いて、私は静かに「そうなんだ……」と呟いていた。


「お医者さんは行くのは初めてなの?聞く限りお医者さんに行くのには高いお金が必要みたいだけど」


 話を聞く限り、医者に掛かるのは始めてなのかな?

 そう思いナルに聞いた。

 だが、以外な言葉が返ってくる。


「ううん。お医者さんは何度も行ってる。僕も何度も行ったよ?」


 あれ?

 医者は庶民には高いけど、それでも無理して医者に行った……って話では無い?

 うーん……


「えっと、普通にみんな病気になったらお医者さんに行くの?」


 そう聞く私にナルは不思議な顔をしながら、


「みんな行くよ?僕も風邪を引いちゃってお熱が出たらお医者さんにいくもん」


 と返してくる。

 もしかすると、病気が重くて……とか?

 いやでも、ただの診察で貯金が全て吹き飛ぶ事なんてあるのかな?

 医者は庶民が皆行く位当たり前の存在なのに、診察しただけで高額の医療請求……


 少し確認する必要があるね……


「そのお医者さんは信用できるお医者さんなの?」


 そう聞く私だが、ナルも不思議な顔をして、


「確かにいつも行くお医者さんは潰れちゃったから違うお医者さんの所だったけど……」


 と言いながら、言葉を続ける。


「でも、その時行ったお医者さんも、潰れちゃったお医者さんと同じ『聖赤心博愛会』のお医者さんだったよ?」


 そう言うナルは不思議そうに私を見ていた。

  

 えーっと。


 つまり、いつも掛かっていた診療所は潰れてたけど、代わりに行ったお医者さんも昔に行っていたお医者さんも、どちらも同じ『聖赤心博愛会』と言う医師会のお医者さんだったと……

 その『聖赤心博愛会』と言う医師会は詳しく無いけど、ナルを見る限り住民は皆信用しているみたい。


「まあいいや。で、高い薬を盗んじゃったみたいだけど、その薬はどうしちゃったの?」


 考える事がめんどくさくなり、私は他の事を聞くことにした。

 ナルは俯き少しの沈黙の後、


「使っちゃった……ママに水だと嘘ついて飲ませちゃった……」


 と、正直に答えた。

 もう薬は無いって事か……

 高い薬って言っていたけど、どんな薬だったのだろう?


「どんな薬だったの?」


 そう聞くと、


「万能薬」


 と返ってきた。


 ゲームとかでは、全ての状態異常をを打ち消したりする凄い薬だったはず…… 

 このファンタジーの世界でも存在するとしたら、それは凄い重要な薬だろうね。

 それをナルは盗んだと……

 

 だが、ナルは「でも……」と話しだした。


「でも、ママの病気は治らなかった……お医者さんによると、ママは心臓に重い病気らしいんだ。だから、治すには万能薬が必要だって言ってて、でも万能薬は効いたけど、全然効果が薄いんだ……」


 心臓の病気で、それを治すには万能薬が必要で、でも盗んだ万能薬を使ったら効果が薄い……と。

 万能薬で効果は出るのに効きが薄いのは気になる事柄だなー。

 

 静かに聞いていた私だったが、突然ナルが立ち上がり私に縋りついてきて驚く。

 私に縋りつくナルは必至の顔だった。


「お願い……!ママを助けて……!魔術師さんに頼むと凄く高いのは知ってる……!でも……!」


 ナルは私を見ながら、吐き出すように叫ぶ。


「ママを助けたいんだ!」


 ナルの心からの叫び。

 私はその叫びを聞き……思った。

  

 面白くなってきたあぁぁぁぁぁぁぁ!

 よぉし!

 少年ナルよ!私にドーンと任せんしゃい!私は正義のヒーロー……いや、ヒロインになるぞぉぉぉ!

 

 私はナルに言う。


「まかせんしゃい!」


 と。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ