一話 目が覚めたら…誰だこれ
水の音が聞こえる。
流れる水の音。
確か私は高齢ドライバーのトラックに轢かれたはず……
それなのに目が覚めるとはいったい……
「全く、どうなっとるんや?……ん?」
あれ?私の声ってこんな高かったっけ?
生まれてから二十年は野郎として生きていたはずだから、こんなに声は高くないはず……
……ん?私?
一人称、私だっけ?
おかしい、何かわからないけど、おかしい。
髪の毛が長かったり、いつもと姿勢が違ったり。
体をペタペタ触ってみても、おかしなところしかない。
胸が大きかったり、腰が括れていたり、お尻が大きかったり。
二十年以上一緒に居た息子もない。
これじゃまるで、
女の体じゃないか?
「顔はどうなんだろう?」
私は今までキモブタとかブサイクと呼ばれる部類だったはず。
まあ、性別が変わっているのだから、容姿も人生勝ち組に入れる容姿だったいいなー。
恐る恐る鏡の様に反射する床のタイルを覗く。
タイルに映るその姿は……
女神かと思った。
余りにバランスが取れすぎて、もはや人形にしか見えない位、人間離れした印象のパーツ間隔。
アジア人の様な平坦でシャープな顔立ちなのに、目の位置は西洋人の様に低い位置。
鋭くもパッチリと大きな銀色の瞳と、小口にぷっくりした唇。
肌の色は白人よりも真っ白で、キラキラと光輝く白銀の髪。
髪の毛は長く、腰の位置まで伸びていた。
「え……っと……」
あまりの顔立ちに、一瞬頭が真っ白になる。
確かに人生勝ち組に入れる容姿なら、それに越したことはないけど……
「ま……まあ、容姿が良いに越した事は無いよね!」
容姿について考えるのをやめよう。
口調も何やら変わっている気がするが、気のせいという事にしよう。
とりあえずどうするか。
辺りを見ても目に映るのは水や滝や噴水で、出口と思われる扉は見る限り一つだけしかない。
出口らしき扉は金や銀で装飾され、各部に様々な宝石を散りばめられた豪華な両開きの扉だ。
吹き抜けの天井から射す日の光でキラキラと各部の宝石が輝きを放つ出口の扉は静かに佇んでおり、まるで私が開けるのを待っているかの様。
立ち上がった私は、引き寄せられる様に近づいて持ち手を握り、
「……よし!」
意を決して持ち手を押して片方の扉に力を入れ、射し込む光を手で覆いながら扉を開け放つ。
そこには雲一つ無い快晴の下、古代エジプトの様な石造りとレンガの街並みが広がっていた。
大きな石を積み上げて作られた建造物と、日干しレンガに土を塗った建物が辺り一面に広がっていて、その街並みをぐるりと囲う大きな石で出来た高い防壁。
私の足元には見下げる石造りの街並みに続く長い下り階段が続いている。
階段は美しい石材が使われていて、まるで私に「どうぞ、お通りください」と語り掛けているかの様。
石造りとレンガの街並みに目を凝らすと、街中には沢山の人が行き来している。
無人の遺跡などでは無いみたいだね。
よかったよかった。
でも、道行く人々の手に持つ道具が余りにもおかしい。
街の皆は時代錯誤の様な壺や、かごを持って歩いているけど、ここは発展途上国なのかな?
うーん、住民と思われる人たちは皆リネンと思われる布の服を着ていて、現代人には見えない……
もしかすると、これはあれかな?
俗に言う『異世界転生』と呼ばれるやつ?
そうであるなら、先ほどの水や滝や噴水があった場所は、もしかすると神殿などかもしれない。
しかし……異世界転生の割には、余りにも低文明すぎやしない……?
異世界転生の定番と言えば、西洋の中世の文明力ではないかと私は思っていたのだけど……
右を見ても左を見ても、前を見てもミイラ物に出てくる古代エジプトの文明力の街並みだ。
自分の異世界転生の印象とは違う街並みだけど、取り合えず初めの一歩を階段に向かって踏み出した。