プロローグ やっぱ俺はクソ雑魚ナメクジ
自分はクソ雑魚ナメクジだ。
何がクソ雑魚かって?
体のスペックは低い上に頭のスペックも低い。
すべてが人に劣っているのだ。
クソ雑魚と言わずなんという?
クソ雑魚である自分の父親もクソ雑魚だ。
父親は見栄ばかり気にしてるけど、ハッキリ言うと父親が社会に誇れる業績は何もない。
中小企業である勤め先の会社の中では少し業績がいいだけだ。
小さな会社の中での業績を幾ら誇らしげに語っていても、所詮ただのクソ雑魚だろ?
母親もクソ雑魚だ。
大好きな母親を貶したくは無いが、これといった業績が有るわけでも無い。
母親は幼少時代の貧乏生活を武勇伝の様に語っていたな。
でも、どれだけ武勇伝の様な貧乏生活を送っていたとしてもだ。
この国には福祉というものがあって、国民には最低限の生活が保障されている。
ぶっちゃけ、日本国民としての最低限の生活になろうとしなかっただけだろう。
と、この様に、体も頭も、母親や父親から貰った遺伝子でさえも、ただのクソ雑魚ナメクジだ。
自分の知人や友人は「もっと自信を持て」と言うが、別に自分に自信が無い訳じゃない。
事実を受け入れて、身の丈に合った思想や信条を持つ事の何が悪い?
まあ、だから。
だからこそ、自分は来世を信じているんだ。
世界は理不尽だからこそ、自分は来世に期待したい。
意識が覚醒していくのを感じながら布団の中から周りを見渡す。
見慣れたワンルームのアパートだ。
回らない頭で枕の横に放り投げてあるスマートフォンを手にとって時刻を見るが……まだ深夜四時か。
「まったく......変な夢見たやんけ」
夢の中で、自分は少し不気味な程に今の自分の心境を整理して簡潔に纏めていた。
夢のラストに『世界は理不尽だからこそ、自分は来世に期待したい』と、ハッキリと今の人生では出来ることが少ない事を再認識した所で目が覚めたっけ。
まあ、夢の中ではいろいろ言っていたが、実は自分はそんなに今の人生に不満を持っていない。
食べ物は美味しいし、ゲームは楽しいし、生活は家電で楽だ。
不満の持ちようがない。
取り合えず、気分転換に外に出るとしようか。
世間はそろそろ春から夏に入る季節だというのに、アパートの玄関は肌寒く風が吹くと寒いと感じるぐらい気温が低い。
薄暗い空を見上げながら早朝の町に向かって歩き出す。
空はまだ薄暗い時間だというのに、稀に人とすれ違う。
犬の散歩をしている人や、こんな時間からスーツを着て出社するサラリーマン。
道行く人を眺めていると、ふと『来世』と言う言葉が頭に浮かんだ。
今日見た夢に出てきた『来世』と言う言葉。
「今の人生、不満は無いけど満足感も無いんだよねー」
感傷に浸りながら、誰に言う訳でも無くポツリと呟いたが、
「そうですか。なら、満足できるといいですね」
突然後ろから女性の声が返ってきた。
すぐに後ろを振り向くが声の主は見当たらない。
代わりに目に飛び込んできたのは、大型トラックの運転席で空を眺めながら無表情でハンドルを握る高齢の男性ドライバーだった。