09.手作りキャラメル
休日になったら、スージーが遊びにきてくれた。
以前からお菓子作りをするとスージーにプレゼントしていたんだよね。
「お義父様もアーシュラちゃんのお菓子がほしいって言ってたから、よろしく」
「おおう!? 子爵様も食べてたの!?」
「あんなおいしいもの一人占めしてるのバレたら追い出されるよ」
たしか前回はマフィンを渡したような気がする。
「侍女たちも食べたいって言ってたから、たくさん作ってね」
つまり、お持ち帰りできて配れるもの……ってことか。
私はう~んと考えながら、試作用キッチンの棚や冷蔵庫の中を見て、キャラメルを作ることに決めた。
棚や冷蔵庫から必要な材料を取り出す。
・水あめ
・砂糖
・コンデンスミルク
・バター
材料をすべて鍋に入れて、火にかける。
鍋底が焦げないように木べらで休まず混ぜ続ける。
キャラメルは時間との勝負だから、慎重にね。
「アーシュラちゃん、Sクラスってどんな感じ?」
スージーが試作用キッチンのはじっこに置いてある椅子に座りながら問いかける。
「キラキラした人がいっぱいいる感じ」
「それ、答えになってないよ。殿下とかピンク頭とか天然腹黒とかいるでしょ?」
スージーは、基本的に仲の良いい人以外はテキトーな名前で呼ぶ。
たぶん、覚えているはずなんだけど、ちゃんと名前で呼ばないんだよね。
殿下は王太子のデリック殿下のことってのはわかる。
ピンク頭もこの間の中庭での一件でヒロインのレイラちゃんだってわかる。
天然腹黒って誰だろう。
「えっと、デリック殿下はいつも笑顔を振りまいてるよ」
「まあ、王太子だから裏の顔なんか見せないよね」
「裏の顔って……ええっと、レイラちゃんは最近、デリック殿下と仲がよくて、この間は手作りのクッキーをプレゼントしてたよ」
渡り廊下での尊い出来事を思い出して、一瞬拝みかけた。
今、鍋を混ぜるのをやめたら、焦げちゃう! あぶないあぶない。
「へ~……婚約者がいる男に手作りのクッキーね……やっぱりヤバイね」
「そ、そうかな」
「他は?」
「天然腹黒っていうのが誰かわからないんだけど……」
私がそう言うと、スージーはあきれたような顔で言った。
「入学式の日、転んだピンク頭になんか言ってた殿下の婚約者だよ」
ああ! あの鈴がなるような声のナイスバディな公爵家のウェンディ嬢か。
「天然腹黒が婚約者になったから、殿下は王太子になれたんだよ。知らない?」
「なんか前にきいたかも?」
「アホな殿下を天然腹黒が操ってくれれば、国が豊かになるんじゃないかって話、もう一回する?」
「いや、うん、今ので思い出したから大丈夫」
実はデリック殿下って、魔力量は多いんだけど、頭はあまりよくないんだよね。
第一王子であるデリック殿下よりも第二王子のほうがすご~っく頭がいいらしい。
だから、第二王子が王太子になるかもって話だったんだけど……。
そこへ第二王子よりも頭がいいとされる王弟の娘……公爵家のウェンディ嬢がデリック殿下と婚約して、陰から支えるってことになったから、デリック殿下は王太子になれたんだったかな。
つまり、デリック殿下は飾りで、ウェンディ様に国を治めてもらうってことだったね。
そんなことを考えていたら、鍋の中身がいい感じのキャラメル色になった。
手早くバットに流し込んで、とんとんとんとバットを叩いて気泡を抜く。
このまま少し放置して、冷めて固まってきたら端から切っていけば、出来上がりだ。
鍋の底についていた、まだ固まりきっていないキャラメルをスプーンですくって食べる。
「あまーい!」
「アーシュラちゃん、私にもちょうだいよ!」
スージーにも同じものを渡すと、目をキラキラさせて喜びながら言った。
「これ、うまっ! じゃなかった、おいしい!」
「でしょ~!」
「あら、またいいものを作ったの?」
「あ、おばさん、お邪魔してますー!」
私とスージーの声が聞こえたのか、お母さんが試作用キッチンにやってきた。
そして、バットの中のキャラメルを見て、うんうんと頷いたあと、私に向かってにーっこり笑った。
ええ、何も言わなくてもわかるよ、お母さん……。
スージーが帰ったあと、レシピを書けってことだよね。
さらに大量生産して、明日の店番中に売り出せってことだよね!?
私はお母さんの笑顔に、あははと笑って返した。
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