03.カラフルなスノーボール
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家に帰るとお父さんがいつものようにニコニコしながら出迎えてくれた。
「おかえり、アーシュラ」
「ただいま!」
「いい出会いがあったかい?」
「同じクラスに王太子のデリック殿下がいたよ~」
「おお! つまりSクラスになったんだな」
「うん」
私のお父さんはかなり大きな商会の会長をやっていて、王侯貴族とも顔を合わせたりするすごい人なんだけど、どうやら子どもたちには甘いんだよね。
普通は商売のために貴族に顔を売ったり、そういうところへ嫁げっていうみたいだけど、お父さんはそんなこと言わない。
一番上のお兄ちゃんは幼馴染と恋愛結婚したし、お姉ちゃんは隣町の商会の息子と結婚したし(ライバル関係に当たる商会なんだよ)、二番目のお兄ちゃんは世界が呼んでるとか言って旅に出ちゃったし、末っ子の私はお菓子ばかり作ってるし。
「お父さん、今日も試作用のキッチン使っていい?」
「いいぞ。材料はいくらでもある。足りないものがあれば言いなさい」
「ありがとう! できあがったらお父さんにもあげるね」
「おお、楽しみにしてるよ」
前世を思い出す前もこうやって毎日のようにお菓子を作っていたから、違和感がないんだよね。
私はいつものように試作用のキッチンに向かった。
キッチンにはお母さんが立っていた。
「お母さん、ただいま」
「アーシュラちゃん、おかえり! ちょうどよかったわ。これ味見してくれる?」
お母さんが渡してきたのは、白い粉がまぶされた二センチくらいの丸い物体。
私は躊躇せずにパクッと食べた。
サクッとした食感とアーモンドとバターの香りが鼻を抜けていく。
私が以前作ったときよりも甘さ控えめになっているようだ。
「おいひい」
もぐもぐと咀嚼しながらそういうとお母さんは困ったように笑った。
「この間、アーシュラちゃんが教えてくれたレシピを甘さ控えめにして作ったの。味には自信があるのよ! でも、お店に出すときの名前が決まらなくて……」
前世を思い出す前の私は思うままにお菓子を創作して、美味しかったものをレシピとして残していた。
今ならわかる。これは前世で作って美味しかったお菓子を無意識に作っていたんだって。
だから、お母さんがレシピを見て作ったというこのお菓子にも名前がある。
「スノーボールだよ」
「あら! もう名前が決まっていたのね!」
「うん。レシピに書き忘れてたみたい」
テヘヘと頭をかきながらそう言うと、お母さんは嬉しそうに笑った。
「量産して、お店に出してもらわなくちゃ!」
お母さんは渡してあったレシピの上のほうに『スノーボール』と書き込むとお父さんがいる店のほうへと歩いていった。
きっと商品化について話し合うのだろう。
お母さんがいなくなった試作用のキッチンで袖をまくり、かけてあったエプロンをつける。
それから手をよく洗って……。
キッチンにはお母さんが作っていたスノーボールの材料が置いてあった。
・バター
・アーモンドプードル
・薄力粉
・粉砂糖
ん~……商品にするなら色違いがあったほうが売れるんじゃないかな?
私は棚から、ココアと抹茶、きなこ、イチゴパウダーを取り出した。
なんでそんなものがあるのかって?
もともとゲームの世界だからか、前世であった食べ物は全部あるのよね。
それを私がいろいろなお菓子を作るためにってお父さんが用意してくれたの。
「さて、やりますか」
私はまず、バターと粉砂糖を混ぜ、泡だて器で練り始めた。
と言っても、魔力を使って自動泡だて器状態にしてあるので、すぐに白っぽくふんわりと軽いバターができあがる。
そこに薄力粉とアーモンドプードルを投入! さっくりと混ぜ合わせたものを四等分にして別の器にうつす。
各々の器に、さきほど棚から取り出した四色のパウダーを入れ、さらに切るように混ぜる。
混ぜたら丸めて、冷蔵庫へ。
その間にオーブンの火加減をチェック。 たぶん、大丈夫。
お茶を飲んで、少し休憩。
休憩が終わったら、冷蔵庫から四色の丸い玉が入った器を取り出す。
あとは全部、二センチくらいの丸い玉に整えて、天板に並べてオーブンへ!
またお茶を飲んで……いい香りがしてきたら、取り出して四色のパウダーを振りかけたら、出来上がり。
四色を八個ずつ……合計三十二個のスノーボールが出来た。
お父さんとお母さんに四色を一つずつ渡せば、残りは二十四個。
これだけあれば、とうぶんおやつに困らない。
私はにこにこしながら、両親のいる店のほうへと足を向けた。