23.離れないで、スージー
私はスージーが離れてしまったショックから、無我夢中でお菓子を作った。
シフォンケーキにアップルパイ、ロールケーキにベリーいっぱいのタルト、フィナンシェ、ドーナツ、イチゴのムース、オレンジゼリー……。
寝る時間を削ってまで作っていたので、お父さんとお母さんには体を壊さない程度でやめるよう注意された。
でも……じっとしていたら、スージーが一緒にいてくれないんだってことを思い出して、泣きそうになるから止まらなかった。
クロスはそんな私を見て、眉をひそめていたけど、何も言わなかった。
そして、気がついたら終業式の日がやってきた。
レイラちゃんや攻略対象者たちの様子から、終業式が終わったあとにいわゆる『断罪』シーンを行うのだろう。
途中からスチルを見ていないので、どういった結果になるかはわからない。
逆ハーエンドになるのか、殿下エンドになるのか、それとも他の四人か。
ヴィクトリア学院の大講堂で行われた終業式はつつがなく終わった。
そして、各自帰宅のため、白バラの門へと向かおうとしたときだった。
「みんな聞いてくれ」
デリック殿下の声が、大講堂に響き渡る。
私も含めてその場にいた学生たちや教師がデリック殿下に視線を向ける。
「僕は今日、イザード公爵家のウェンディと婚約破棄することをここに宣言する!」
その言葉に、その場にいた者たちはざわついた。
ゲームをやっていたときは、王太子であるデリック殿下が婚約破棄を宣言しても何もおかしいと感じなかった。
でも、ここは現実。
デリック殿下とウェンディ様の婚約って、国王陛下が決めたことなんだ。
それを覆すことができるのは国王陛下だけ。
王太子であるデリック殿下にその権限はない。
権限のない者がこんな発言を人前でするのって、ただのワガママを言っているだけというか、恥をさらしているだけなんだよね。
「それは本気でございますか?」
ウェンディ様がそう発言すると、デリック殿下との間にいた学生たちはさっと離れて空間を作った。
巻き込まれたくないもんね……。
スージーは……あれ? いない。
「レイラに対する仕打ち、それを聞いているうちに、ウェンディに対する信頼は地に落ちた」
「どういった仕打ちですの?」
「しらばっくれるのか!」
デリック殿下の発言はゲームと同じセリフだったりする。
ゲームの中のウェンディ様はヒロインをいじめていたけど、現実のウェンディ様はレイラちゃんをいじめていない。
「レイラが作った菓子をガーター商会の菓子だと罵ったであろう!」
仕打ちって、いじめについてじゃないんだ!?
罵るもなにも、あれはガーター商会で販売しているお菓子……私が作ったお菓子だよ。
事実をいっただけだよね。
「婚約破棄、了承いたしました。国王陛下へは私から伝えておきます」
ウェンディ様は深いため息をつくとそう言った。そして、大講堂から出て行った。
取り巻きであるスージーはといえば、一緒に出て行かなかった。
というか、どこにいるんだろう?
首を傾げていたら、ぽんと肩を叩かれた。
「こ、この感じはスージー!」
振り向いたら呆れた顔をしたスージーが立っていた。
私は口元に手を当てて、泣きそうになるのをグッと堪えた。
そうしたら、スージーは慌てた表情になって、私の肩を掴んだ。
「どうしたの!? 何かされたの!?」
「ち、ちが……」
泣かないようにゆっくりと、スージーがウェンディ様の取り巻きになって、私から離れたことを話した。
「はぁ? たしかに私はウェンディ様と友達になったけど、それでどうしてアーシュラちゃんから離れなきゃなんないの?」
「だって……幼馴染やめるって前に言ってたから……」
「アーシュラちゃんは目を離すとすぐに大変なことに巻き込まれてるんだから、やめれるわけないでしょ!」
スージーのその言葉で、私は涙腺が崩壊して、わーわーと泣き出してしまった。
私がそんな風に泣いている間、攻略対象者の五人はレイラちゃんを取り合っていた。
「レイラと婚約するのは僕だ」
「デリック殿下はまだ、正式に婚約破棄してない。宰相令息である僕と婚約するべきだ」
「ニコラスくんには縁談が来ているだろう? ここは教師である私が責任を取ろう」
「レイラさん、僕と婚約してください」
「抜け駆けはやめろ、モーリス!」
「ブライアンも婚約してほしいって言えばいいんだよ」
五人があれこれ言っている中、レイラちゃんはずっとキョロキョロと周囲を見回すだけで何も言わなかった。




