22.デリック殿下とプリンアラモード
生クリームたっぷりのプリンをクロスに食べてもらったんだけど、すごく喜んでいたっけ。
それを思い出しながら、学院の中庭を歩いていたら、テラス席でレイラちゃんがデリック殿下にお菓子を渡している現場に遭遇した。
周囲にはたくさん人がいて、二人のやりとりをみんな注目してみている。
スチルとは無関係の場所だし、今回は覗きってわけじゃないから、怒られない……よね?
キョロキョロと見回したけど、黒猫の姿はなかった。
ほっとしていたら、テラス席での会話が聞こえてきた。
「これは何という食べ物だ? とても美味い!」
デリック殿下はレイラちゃんからもらったお菓子を無我夢中で食べている。
「これはプリンアラモードです」
レイラちゃんはにっこりと微笑みながらそう答えた。
それって、昨日お店で売っていた私が作ったプリンだよね。
ガーター商会の印が入った瓶は可愛らしい布で見えないようにされている。
お父さんが考えたかわいいデザインを隠されていることに、ちょっとムッとした。
それとは別に、私が作ったプリンを美味いって言ってもらえるのは嬉しい。
なんだか、複雑な気分だ。
そんなレイラちゃんとデリック殿下がやり取りしているところへ、デリック殿下の婚約者である公爵家の令嬢ウェンディ様が近づいていった。
うわ~……もしかして、修羅場!?
ウェンディ様の後ろにはスージーが付き従っていた。
え? なんで??
そういえば、最近、スージーを見かけていなかったかも……。
「まあ、こんな目立つ場所で、何をしていらっしゃるの?」
「レイラが作った手作りの『ぷりんあらもーど』とやらを食べている」
ウェンディ様は答えを聞くと、じっとデリック殿下が持っているプリンの瓶を見つめた。
「そちら、レイラさんの手作りではございませんのよ」
「何を言っている? もしや、それは嫉妬か?」
ウェンディ様の言葉に、レイラちゃんはさっと視線をそらした。
デリック殿下はそれに気付かず、ウェンディ様に向かって、見下すような視線を投げた。
うわ……ウェンディ様、あからさまに深いため息をついてるよ。
「殿下の婚約者であるわたくしがどうして嫉妬しなければならないのかしら?」
「婚約者だからこそ、だろう」
ウェンディ様はまたも深い深いため息をついた。
「どれだけおつむがゆるいのかしら……」
「何か言ったか?」
「いいえ、何でもございませんわ。話がそれましたわね。殿下がお持ちのその瓶にかかった布を取ってくださいませ」
デリック殿下はウェンディ様の言葉を聞いて首を傾げる。
「レイラさんが作ったのではないという証拠がございますの」
レイラちゃんの視線がいろんなところをさまよっているのがよくわかる。
デリック殿下はウェンディ様を睨んだ後、プリンの入っている瓶の布を取った。
この距離でも、プリンの入っている瓶にガーター商会の印が入っているのが見えるよ。
「こ、これはその……瓶を再利用しただけなんです!」
レイラちゃんは、デリック殿下とウェンディ様の間に割って入って、そう叫んだ。
一国の王太子に再利用した瓶を使いました……っていうのはどうなのかな。
「殿下、よろしいでしょうか?」
「誰だ、お前は」
「タルコット子爵家のスージーと申します」
す、スージーがデリック殿下に話しかけてるよ!?
「なんだ、話してみろ」
「ありがとうございます」
スージーはデリック殿下に向かって、貴族らしい挨拶をすると、冷めた目をしながら言った。
「私は以前からガーター商会と懇意にしております。商会の印が入った瓶ですが、すべてナンバリングされており、いつ作ったものかわかるようになっております」
デリック殿下はスージーの言葉が理解できないのか、首を傾げている。
でも、レイラちゃんには理解できたのだろう。
顔を青くしたままうつむいている。
調べたら、私が作ったってことが、レイラちゃんが作ったものではないってことがわかるってことだもんね。
「殿下、知ってまして? ガーター商会の手作り菓子はね、わたくしのお父様や国王陛下も好んで食べているの」
えええ!? いつの間にイザード公爵や国王陛下が口にしたの!?
もしかして、あのお忍びで来ている貴族のおじさんが……そういえば、デリック殿下やウェンディ様と同じ黄金色の髪とひげだったような……。
「もし、ガーター商会の手作り菓子をレイラさんが作ったのだと偽っていれば、お気に入りの菓子を侮辱されたと思うかもしれませんわね」
私が混乱している間に、ウェンディ様はそういって去っていった。
スージーもウェンディ様と一緒に去っていく。
レイラちゃんは真っ青を通り越して、真っ白な顔色になっている。
なんかすごい会話をしていたけど、それよりもスージーがウェンディ様と一緒に去っていったことが気になった。
あれだとまるでウェンディ様の取り巻きの令嬢みたい……って、そうだよ! ゲームだと、スージーって取り巻きの一人だったよ!
今ごろ気づくなんて……。
もう、わたしとは一緒にいてくれないのかな……?
レイラちゃんとかデリック殿下とか、スチルとかそんなの全部どうでもいい。
スージーが私のそばから離れてしまうのがすごくショックだった。




