幕間4.ヒロイン レイラ視点
私の名前はレイラ・ワーズワース。
男爵家の令嬢とは仮の姿で、実はこの世界のヒロインなの。
ここが乙女ゲーム『スイーツ~恋する乙女』の世界だと気付いた日から、リメイク版の隠しキャラクターである魔王の令息のクロス・サマーヘイズ様と結ばれるように努力してきたわ。
クロス様と結ばれるための条件は二つ。
一つは幼少期に黒猫に変身しているクロス様と婚約の約束を交わすこと。
これは婚約の証となる『金色のリボン』をすでに渡しているから、大丈夫。
もう一つは、学院に入ってから他の攻略対象者を逆ハーに近い友情エンド状態にすること。
そうすることで、クロス様が嫉妬して現れてくれる。
攻略対象者は五人もいるから大変だったの。
でも、努力の甲斐あって、好感度チェックイベントでは、五人とも私のこと好きだって示してくれた。
このままいけば、一学期が終わるころにはクロス様が現れてくれる!
そのために攻略対象者を落とすための最期のお菓子を贈らなくちゃ!
まずは騎士団長の令息であるブライアン様に、スイートポテトを贈って、あっさり成功したわ。
次に学院教師であるユリシーズ先生に、スコーンとリンゴジャムを贈って、ちょっとゲームとは違う行動をされたけど、笑顔が見れたし、成功したと思うわ。
他の三人もうまく行くと信じていたんだけど、予想外の出来事が起こったの。
それは、いつも私をサポートしてくれてるお店にお菓子が売ってなかったの!
「どうしてお菓子を置いてないんですか!」
「申し訳ございません」
「困るんです! すぐに用意してください!!」
お店の店員にそう抗議をしたんだけど、困った顔をされるだけで、その日は結局、お菓子は売り出されなかったわ。
次は魔法学者の令息であるモーリス様にコーヒーゼリーを贈らなきゃいけないのに!
いつものお店にないんだから、諦めるしかない。
なんて思うわけないでしょ!
他のお店で買って、それを贈ったわよ。
結果としては、微妙な顔をされたわ。
でも、完食だったから成功のはず。
その次は宰相の令息であるニコラス様にチーズケーキを贈らなきゃいけない。
ダメ元でまずはいつものお店に行ったら、チーズケーキはなかった。
でも、ティラミスが置いてあった。
モーリス様の時に他のお店で買ったお菓子では微妙な顔をされたわ。
チーズケーキではないけど、いつものお店のお菓子だったら味に間違いはないはず。
今までひとつだってハズレを引いたことはないもの。
だから、『ラム酒の効いたティラミス。大人向けのお菓子です。ご注意ください』って注意書きが添えられたティラミスを買ったわ。
そうしたら、ティラミスの入った瓶に思いっきりガーター商会って文字が刻まれているじゃない!
どうやってもその文字は消せなくて、じゃあ別の瓶へと移し替えようかとも思ったんだけど、二層になってるティラミスを移すなんてムリ!
悩んだ結果、可愛らしい布で包んで誤魔化したわ。
それをニコラス様に贈ったんだけど……。
「これはかなりラム酒が効いている」
ニコラス様は一口食べると、眉をひそめながらそう言って、食べるのをやめてしまったの。
一口でやめた。
つまり、口に合わないってこと……。
大失敗よ!
このままじゃ逆ハーに近い友情エンドにならない。
クロス様に嫉妬してもらえない!
どうしよう、どうしたらいいんだろう?
不安に思ったとき、ヴィクトリア学院の白バラの門が目に入った。
あの白バラの門は、ゲームのスタート画面なのよ。
そうよ、この世界は乙女ゲーの世界。
そして、私はこの世界のヒロイン。
ゲームの世界なんだから、失敗したら、やり直せばいいのよ!
それに気がついたので、不安だった気持ちはどこかへ行ったわ。
最後はデリック殿下にお菓子を贈って、終業式を迎えればいいわ。
もし、クロス様が現れなかったとしても、やり直せばいいのよ。
何度でもやり直して、絶対にクロス様と結ばれるんだから……!
このぶっとんだ思考、書いていてつらかった……(苦笑