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19.クロスのお仕置き

 家に帰ると真っ直ぐ自分の部屋へと向かう。

 部屋にはすでに黒猫姿のクロスがいて、イスの上に腕を組みながら立っていた。


「ベッドに座れ」


 私は言われるがまま、ベッドの縁に座った。

 高低差の関係で、ベッドに座ると黒猫姿のクロスに見下ろされる形になる。


「で、何が違うというんだ?」


 しばらくの間、私は黙っていたけど、クロスの真っ直ぐな視線に耐えかねて、素直に話すことにした。


「信じられない話だとは思うんだけど、実は私、転生者なの」

「転生者とはなんだ?」

「こことは別の異世界の記憶を持ったまま、この世界に生まれた者ってこと。しかもこの世界は乙女ゲームの世界で……」

「乙女ゲームとはなんだ?」


 クロスに説明するのはとても大変だった。

 わからない単語が出てくるたびに、それを説明していかなきゃいけない。

 でも、この世界には転生者も乙女ゲームも存在しないんだから、仕方ないか……。


 乙女ゲームのこと、ヒロインと攻略対象者がいることなどを時間をかけて説明した。


 クロスは、初めのうちは呆れたような顔をしていたんだけど、私の説明がとても細かくて、想像だけで話しているとは思えなくなったようで、途中から真面目に話を聞いてくれた。


「だいたいは理解した」


 クロスは聞き終わったあと、そういって頷いた。


「理解したからこそ言っておくぞ。ここは現実だ。アーシュのいうような仮想の世界ではない。ゲームというものとは違ってやり直しは効かないんだ。そこは自覚しろ」

「……うん」


 そこははっきりと自覚していなかった。

 なんとなく、やり直せない……と思っていた程度だった。


 私はモブ以下の存在だと思っていて、主人公にはなれないと思っていた。

 好きにお菓子を作っているつもりで、レイラちゃんが必要な物を用意していたのだって、モブとして当然の行動だと思っていた。

 でも現実なら、誰もがみんな主人公だ。自分だけの人生を歩んでる。

 私も乙女ゲームに囚われずに自分の人生を歩むべきなんだろうな。


 しょんぼりとしているとクロスは、厳しい口調でこういった。


「それで、なぜ覗きをしていたんだ?」


 自分のことや世界のことは話していたけど、学院での行動については言ってなかった。

 結局、スチルを見るのって現実だと覗きをするのと同じだよね。


 それに気がついたため、口ごもってしまった。


 クロスの目がジトッとしたものに変わった気がする。

 ヤバイかも。

 本能的にそう感じ取った直後、クロスはぼふんという煙とともに黒猫から人型へと戻った。


 人型のクロスは、ロックな感じのイケメンで、ついつい見惚れてしまう。


「言いたくなるようにしてやろう」


 クロスはニヤッとした笑みを浮かべながらそういうと、パチンッと指を鳴らした。

 すると部屋の内側に見えない膜のようなものを張った感覚があった。


「今のは、防音の結界だ。これで心置きなく、お仕置きができる」

「えええ!?」


 クロスはどんどん迫ってくる。

 私はベッドの縁に座っていたので、そのまま押し倒されてしまった。


「ちょ!?」


 そして、クロスはポケットから真っ黒なリボンを取り出すと、私の両手首を縛った。


「本当は首につけるつもりだったんだがな」


 クククといった笑い方が似合いすぎる!

 って、魔王の令息、次期魔王だった!!


 なんて、考えている間に、クロスは私のことをふんわりと抱きしめると、そのまま……。


「覚悟しろよ」


 くすぐり始めた。

 エロイ意味じゃなくて、本気のくすぐり……!


「や、やめえええ!」

「手を出されると思っただろう? 我が国では結婚するまで手出しはしないことになっている。次期魔王である俺がそれを破るわけにはいかないからな……!」


 なんて、クロスは言いつつもくすぐり続ける。


「やめて、うひいい……!!」


 わけのわからない叫び声を上げていくと、クロスの笑みはどんどん黒くなっていった。


「さて、いつになったら、話すかな?」

「はなす、はなすからああああ!!」


 そう叫ぶと、クロスはくすぐるのをやめた。


 私はぜえぜえと荒い息を繰り返しつつ、すぐに覗きをしていた理由を話し出す。


「乙女ゲームにはスチルというのがあって、攻略対象者の見目麗しい姿の絵が見れたの! それと同じ場面が見たくて、覗いていたの!!」

「それはつまり、他の男を見たかったというこか」


 クロスの目がジトッとしたものに変わった。

 マズイ! マズイイイイ!!

 何がマズイって、まだ手首縛られたままなんだけど!!


 私は乾いた笑いを浮かべるしかなかった……。


「婚約者がいる身でそれはどうなんだろうな?」


 クロスはそういうとサッと私の脇に手を置いた。

 もうそれだけでくすぐったい。笑いが起こる。やめてえええ!!


「もうくすぐるのは勘弁してえええ!!」

「ならば、約束するがいい。もう二度とスチルとやらを見たいがために覗きはしないと」

「する、約束する!」


 こうして私は二度と覗きはしないと約束した。


 約束した以上、ニコラス様とモーリス様、それからデリック殿下のスチルは見れない。

 見れないなら、お菓子を売り出す必要はないよね。


 そう思ってお店で売り出すのをやめようと思ったんだけど……。


 常連さんから苦情というか嘆きの声があって、お父さんとお母さんからも頼み込まれたので、結局、お菓子は売り続けることになった。

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