表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/30

18.ユリシーズ先生とリンゴジャム

 スコーンとリンゴジャムのセットは瞬く間に売れた。

 試作品ではなく、定番のお菓子だったから、売れ残るんじゃないかと心配していたんだけど、そんなことはなかった。


 そして、翌日。

 授業が終わって各自帰宅する時間に、レイラちゃんは学院教師のユリシーズ先生の元を訪れた。

 場所はユリシーズ先生が私室のように使っている準備室。


 私はどこにいるか、だって?


 もちろん、外だよ。窓の外からこっそり覗いているよ。


 時間は夕暮れで、だいぶ涼しくなったので、準備室の窓は盛大に開いていた。

 これならばっちり、声が聞こえるね。


 レイラちゃんが準備室に入るとユリシーズ先生はにこりと微笑んだ。


「いつも突然やってくるね」

「先生がそうさせてるんですよ」


 レイラちゃんはそんな軽口をたたきつつ、抱えている袋をそっとユリシーズ先生に差し出す。


「今日は何を持ってきたんだい?」

「手作りのスコーンとリンゴジャムを持ってきました」


 レイラちゃんは手慣れた様子で、準備室の戸棚にあるお皿やスプーンを取り出していく。

 これまでユリシーズ先生に何度もお菓子を渡しているから、場所がわかって当然だね。


 その間に、ユリシーズ先生が袋から、スコーンとリンゴジャムを取り出したんだけど、リンゴジャムの瓶を見て、めちゃくちゃ驚いているよ。

 ゲームだとにこりと笑うだけなんだけど……もしかして、リンゴジャムの作り方間違えた!?


「このリンゴジャムは、どこのリンゴを使ったんだ!?」


 ゲームとは全く違う雰囲気のユリシーズ先生がレイラちゃんにそう問い詰めた。


 どこのリンゴ? 試作用キッチンに置いてあったものだからどこかわからない。

 季節外れのリンゴだし、市場に出回ってないのかもしれない。

 やらかしたかも!?


「えっと、その……」


 レイラちゃんは目線を彷徨わせて、何も言えなくなった。


 そして、ユリシーズ先生は自分でリンゴジャムの蓋を開けて、スコーンにたっぷりぬった。


 って、ちょっとまってー!

 ゲームだと、ここでヒロインがスコーンにたっぷりぬってあげて、ユリシーズ先生の口に運ぶんだよ。

 つまり、あーんっ! っていうやつ。それがスチルなの。

 それなのに、自分でぬって自分で食べちゃったよー!


 ゲームのスチルと同じ場面が見れなくてショックをうけていたけど、食べたあとのユリシーズ先生の笑顔はスチルの絵と同じものだった。


「これは間違いない。昔住んでいた場所のリンゴだ!」


 そういえば、この世界では真っ赤なリンゴって珍しいものだっけ。

 それを使ったリンゴジャム。

 しかも皮を使ってあるから、見ただけで昔住んでいた場所のものだって気づいて、いてもたってもいられず、自分で食べちゃった……ってとこかな。


 ユリシーズ先生がレイラちゃんに向かって何か言っていたけど、もう耳に入らなかった。

 スチルを見れなかったことがあまりにもショックだったみたい。

 私はため息をつきながら、その場から離れた。


 とぼとぼと中庭を歩いていたら、どこからか黒猫がやってきた。

 銀色のリボンを首につけているので、クロスのようだ。

 って、どうして学院にいるんだろう?


「何をやってるんだ」


 首を傾げていたら、周囲に誰もいないのを確認したあと、クロスにそう問われた。


「えーっと……」

「ほう? 口ごもるようないかがわしいことをしていたんだな」

「ちがうの、ちょっと気になることがあって、準備室を覗いていただけで……」

「覗きはいかがわしいことではないのか?」

「うっ」

「アーシュは覗き魔というわけだな」

「ちがうの、ちがうのー!」


 私はつい大きな声で叫んだ。

 すると、クロスが両手で私の口をふさいだ。

 といっても、黒猫姿なので、肉球がふにっていった感じ。


「声がでかい。詳しいことは家に帰ってから聞いてやろう」


 私は渋々といった感じで、コクコクと頷いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ