13.ビスコッティと銀色のリボン
梅雨が終わって夏の暑さを感じるころ、スージーの誕生日がくる。
私は毎年、手作りのお菓子を渡してお祝いしているんだけど……今年は何を作ろうかな。
いつもの試作用キッチンでぼーっと見回していたら、ピン! っと閃いた。
「今年はビスコッティにしよう!」
オーブンで二度焼きして水分を飛ばすから日持ちするようになる。プレゼントに最適なんだよね。
私はいそいそと棚や冷蔵庫から必要な材料を集める。
・小麦粉
・砂糖
・卵
・くるみ
・チョコチップ
今回はくるみやチョコチップを用意したけど、アーモンドやピスタチオなんかのナッツ類、レーズンなどのドライフルーツ類を入れてもおいしいんだよね。
最初にオーブンに火入れをしておいて……ボウルに砂糖と卵を入れて泡だて器でよく混ぜる。
そこに小麦粉を入れてヘラでさっくりと混ぜたところに刻んだくるみとチョコチップを投入。
天板に一センチくらいの厚さの楕円形に広げて、オーブンで焼き色がつくまで焼く。
焼けたら粗熱は取れてから、一センチくらいの厚さに切って、断面を上にして天板にのせてもう一度焼く。
これを何度か繰り返して、大量生産完了!
と言っても、今回はプレゼント用だから、お店で販売はしない。
「少しだとスージーのメイドさんたちに取られちゃうもんね」
別にいじめられたりしてるんじゃなくて、ただたんに私が作ったお菓子だってわかると欲しがるんだって。
それを考えて、大量に用意したの。
もちろん、私も食べるんだけどね。
粗熱が取れたものから袋に詰めていけば、完成。
形がおかしいものをお皿にのせて、自分の部屋へと向かう。
部屋にいるのは、しゃべる黒猫のクロス。
「おまたせ~。今日はビスコッティを作ったよ」
そう言って、クロスの定位置となっている机の上にお皿を乗せた。
「なんだ、少ないじゃないか」
今回、クロスのお皿の上に乗っているのは二本のビスコッティ。
普段は山盛りのお菓子を食べているだけあって、不満みたい。
「今日はスージーの誕生日プレゼントとしてお菓子を作ったから、私たちが食べられるのは少ないんだ。ごめんね」
そう言う私のお皿にもビスコッティは二本しか入っていない。
「むう」
「私の分、一本あげるから許して?」
クロスのお皿にそっと一本乗せると、パッと嬉しそうに笑った。
猫って笑うんだ!?
サクサクという音とともに作ったビスコッティを食べる。
チョコとくるみの組み合わせはナイスだったみたい!
あっという間に食べ終わってクロスを見れば、少し硬いからか食べるのに苦労していた。
その姿をほほえましく見ていたんだけど、なんか足りないなと思った。
何が足りないんだろう?
って、わかった! 首輪がないんだ。
前世での猫は、首にタグや鈴のついた首輪をしていた。
今世に首輪は存在していないけど、お菓子を包んだりするからリボンは存在する。
私はさっき、スージーの誕生日プレゼントを包むときに使った銀色のリボンを取り出して、適当な長さに切った。
そっと、クロスの背後に回って……首にリボンをつけ、蝶々結びにした。
「やっぱり似合う~!」
クロスは私の声に反応をして顔を上げるとこちらを向いた。
「なんだ?」
「首にリボンをつけたんだよ。真っ黒な猫さんだし、銀色のリボンが似合うって~」
「は? リ……リボンをつけた……だと?」
クロスは食べるのも止めて、慌てた感じで首元のリボンに触れた。
何度も何度も触れて確かめて、そのあと項垂れ始めた。
「食べてるときにつけたんだけど、気づかなかった?」
そう問いかけるとこくりと小さく頷いた。
その姿がなんというか、哀愁漂うというか……。
これはやってはまずいことをしたのかな。
「そんなに嫌なことだった? はずす?」
クロスは顔を上げたあと、私の顔をじっと見つめた。
なんでじっと見られているのかわからなくて首を傾げたら、クロスはぶんぶんと首を横に振って言った。
「はずさなくていい……。むしろ、このままでいい。……覚悟しろよ」
最後になんて言ったか聞き取れなかった。
さっきまでの哀愁漂う姿から獲物を見つけたときの獣のような喜色満面な雰囲気に変わると、私から視線をそらして、残りのビスコッティを食べ始めた。
その日の夜、クロスは初めて私のベッドにもぐりこんで一緒に眠ったんだけど……翌日から姿を消した。
ブクマ・評価ありがとうございます!