幕間2.幼馴染 スージー視点
私には心配な幼馴染がいる。
長くてさらさらな茶色の髪とくりくりとした琥珀色の瞳をしたガーター商会のアーシュラちゃん。
物心ついたときから一緒にいるんだけど、アーシュラちゃんってばいつもぼーっとしていて、目を離すと転んでいたり、川に落ちたりと大変だった……。
王立ヴィクトリア学院に入学してからは、だいぶ落ち着いた……と思っていたら、どうやら面倒な人と関わっているみたい。
アーシュラちゃんはお休みの日にお菓子を作って、販売してお小遣い稼ぎをしているらしい。
そのお菓子はとても人気で高位貴族がお忍びでこっそり買いにくるほどの味なの。
時々お裾分けしてもらっているけど、言い表せないほどおいしくて、さすが私のアーシュラちゃん! っていつも心の中で大絶賛してる。
直接言うと天狗になっちゃうから、心の中だけね。
そんなアーシュラちゃんのお菓子なんだけど、行動や発言がヤバイって有名のピンク頭が毎週買いに来ているらしい。
買って自分で食べてるんならさ、私だってここまで警戒しないんだけど……どうやらそのお菓子を使って、アホな男どもの気を引いているみたいなんだ。
ピンク頭が「私の手作りなの」って言ったときは、抹殺したい気持ちでいっぱいになったよね。
アーシュラちゃんは気にしてないみたいだけど、私が許せないの!
というわけで……私はとある人物に相談を持ち掛けた。
「お初にお目にかかります。タルコット子爵家のスージーと申します。紹介もなしに声を掛けて申し訳なく思っておりますが……少し、お耳に入れていただきたいお話がありまして……」
私が恭しい態度で声を掛けたのは王太子の婚約者である天然腹黒……じゃなかったイザード公爵家のウェンディ様。
「まあ……面白そう。ここではなんですので、テラス席へ行きましょ」
ウェンディ様はにこにこ笑顔で、私を食堂の高位貴族専用テラス席へと案内してくれた。
「お座りになって」
「ありがとうございます」
「それで、お話って?」
「ご存知かもしれませんが……殿下が別の女性と仲良くしている……件です」
「あら……それで?」
ウェンディ様は扇を広げて口元を隠した。
「その女性が殿下を口説き落とすのに使っているお菓子が、どうやら私の幼馴染が作ったものと酷似しておりまして……いや、酷似というか、そのものなんです」
「どういうことですの?」
「幼馴染が商会の娘でして、自分で作ったお菓子を店で販売しているんです。それを買ったピンク頭が殿下に『私の手作りなの』と言って渡しているようでして……」
「うふふ……ピンク頭、ね」
「あ!」
ピンク頭の名前を覚えていないんだから、しかたないけど、公爵家のご令嬢の前でこれはダメよね。
「わたくしの名は、イザーク公爵家のウェンディよ。あなたとはお友達になれそうだから、名前で呼んでくださいね」
「は、はい……」
なぜ、お友達になれそう……になったのかわからない。首を傾げていたら、ウェンディ様がにこにこ笑顔で言った。
「殿下とピンク頭が仲がいいっていうのはあちこちから聞いているし、同じクラスなので目にもしているの。でも、どうやって殿下が落ちたのかと思っていたの。まさか、お菓子で餌付けされているなんて思わなかったわ」
ウェンディ様がピンク頭って言ったよ!?
驚いた表情をして見せれば、心底楽しそうに微笑んだ。
「知っていると思うのだけれど、わたくしが婚約者だから殿下は王太子になれたの。わたくしが婚約者を辞めたら、殿下は王太子ではなくなるという意味でもあるのよね」
大きく頷くと、ウェンディ様はさらに続けた。
「そのことを何度も殿下には伝えてあるのだけれど、理解してくださらないの。お父様に頼まれて婚約者になっただけで、わたくしの意志ではないというのに……」
ああ、わかった。
ウェンディ様って、殿下のことあまり好きじゃないんだ。
むしろ、婚約を解消したいと思っているのかもしれない。
「ウェンディ様は、殿下との関係がどのようになっても……気になさらない……ということですかね」
はっきりとそう言うと、ウェンディ様はさきほどよりも楽しそう……というか、嬉しそうな顔をした。
「やっぱり、あなたとは仲良くなれそうだわ。はっきり物を言ってくれる方って少ないから、大歓迎よ。……あなたの言うとおりよ。むしろ……うふふ……今は、確実な証拠を見つけるところから始めましょうか」
この件がきっかけとなり、私はウェンディ様とも末永くお付き合いすることになるんだけど、それはまた別の話……。
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