幕間1.ヒロイン レイラ視点
私の名前はレイラ・ワーズワース。
山と畑しかないド田舎出身の男爵家の令嬢……というのは仮の姿で、実はこの世界のヒロインなの。
ここが乙女ゲーム『スイーツ~恋する乙女~』の世界だってわかったのは、十歳のとき。
魔力の検査のため、お父様に連れられて王都を歩いていたら、急に思い出したの。
混乱したのは数分で、すぐに私は自分がすべきことを考え始めたわ。
ここは乙女ゲームの世界で私はヒロイン。
つまり、ゲームのようにハッピーエンドやノーマルエンド、バッドエンドなどを自由に選べる立場。
自由に選べるなら、推しキャラと結ばれるハッピーエンドがいいに決まってる!
私の推しはリメイク版の隠しキャラクターで、魔王の令息であるクロス・サマーヘイズ様!
ヒロインが幼少期に、黒猫に変身していたクロス様と婚約の約束をしていたため、学院にいる間に迎えにくるという設定だった。
設定を現実にするため、黒猫を見かけるたびに婚約の証となる『金色のリボン』を渡すことにしたの。
渡すといっても大抵の黒猫は逃げてしまうので、リボンの先にまたたびをつけて投げたわ。
すると、黒い猫はすぐに戻ってきてリボンを咥えてどこかへ去るの。
私が投げたリボンを拾っていくのだから、渡したようなものだもの。
こうしてゲームがスタートする五年後に向けて、準備を始めたわ。
そして、五年後……。
待ちに待った学院生活がスタートしたわ。
クロス様が現れる条件は、すべての対象者を逆ハーに近い友情エンド状態にすること。
そうすると嫉妬したクロス様が現れるの!
王太子であるデリック殿下との出会いイベントのために『白バラの門』で転ぶのは恥ずかしかったけど、なんとかクリアした。
魔法学者の令息であるモーリス様との出会いイベントはいきなり手を握ってくるってもので、なかなか手を離してくれないから笑いそうになっちゃった。
騎士団長の令息であるブライアン様との出会いイベントは寝坊しちゃって、早朝の素振りを見逃しちゃったけど、中庭で声を掛けたからセーフのはず。
ここからが大変だった。
宰相の令息のニコラス様との出会いイベントでは、チュートリアルで作る『絞り出しクッキー』が必要なんだけど……。
てっきり、ゲームの画面みたいにボタンをポチポチ押せば、簡単にお菓子が作れると思っていたら、材料集めから、作るところ、包装まで全部、手作業でやらなくちゃいけなかったの!
前世でも今世でもお菓子作りどころか料理すらしたことなかったの。
作れるわけないじゃない!
一応、試しにそれっぽい材料をテキトーに入れて作ったら、何だかよくわからないものができた。
見た目が悪いだけかもしれないと思って、一口かじってみたんだけど、端っこは焦げてて苦いのに中は生焼けで、すぐに全部捨てちゃった。
ニコラス様においしいって言わせるイベントだから、こんな得体の知れないものを渡すのはダメ!
材料がなくなって、仕方なく王都にあるお店を巡っていたら、いいことに気がついたの。
売ってるものを『私が作った』って言って渡せばいいじゃない!
あちこちのお店で探したんだけど、売ってなくて諦めかけたとき、ふと目の前にあった大きなお店に入ったの。
そうしたら、まるで私のためっていう感じで、一袋だけ『絞り出しクッキー』が置いてあったの!
「なーんだ、売ってるじゃない! そうよ、私はヒロインだもの。きっと私が困っているから救済措置が発動したんだわ!」
私はこの大きなお店……ガーター商会でナッツののった絞り出しクッキーを買ったわ。
そして翌日、デリック殿下とニコラス様に食べてもらって、おいしいと言ってもらった。
これでニコラス様のフラグも立った。
たしか、来週は学院教師のユリシーズ先生にキャラメルを渡すイベントがあったはず。
休日にまた、ガーター商会へ行ったら、キャラメルが売っていた。
このキャラメルを渡せばユリシーズ先生のフラグも立つ。
ホント、この世界はヒロインの私のために甘くできているんだわ!
世界そのものが私を応援していると言ってもいい!
クロス様、待っていてね。
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