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01.王太子【デリック殿下との出会い】

「趣味はお菓子作りと覗きです!」の連載版になります。

設定の変更、キャラクター名の追加、別視点の話などを入れていく予定です。

よろしくお願いします。

「おおう! そういうことか」


 ツタが絡まってできたアーチ状の門、季節関係なしにずっと咲き続ける白いバラ……。

 王立ヴィクトリア学院の正門を見た瞬間、脳裏に様々な映像が流れて理解した。


 ここって前世でハマってた女性向け恋愛ゲーム『スイーツ~恋する乙女~』の世界だ!

 この白いバラで出来た門……通称『白バラの門』が何よりの証拠。

 だって、ここがスタート画面だったんだもん!


 『スイーツ~恋する乙女~』とは、スマートフォン用の女性向け恋愛シミュレーションゲームで、田舎育ちの男爵令嬢であるヒロインは、稀有である光属性の魔力を保有する美少女。

 彼女の住むコンフィ王国では、魔力を保有する者は十五歳になると王立ヴィクトリア学院に入学し、魔力の扱い方を学ぶことになる。

 そこで彼女は素敵な男性と出会い恋に落ちる。


 ヒロインは様々なお菓子を作って意中の相手に渡し……餌付けしていくことで男性を攻略していくんだ。

 ゲーム中にヒロインがお菓子を作りだすと、画面に材料や作り方が載ったレシピが表示されるっていう謎機能があって……私はそれをお母さんに見せながら一緒にお菓子を作ってた。

 何度もいろいろなお菓子を作ってたら、ゲーム攻略とセットでお菓子作りにもハマっちゃったんだよね。


 スマホのアプリでお手軽に神絵師様が描いたスチルや、超有名な声優様のボイスがきけるものだから、けっこう人気があったんだよ。

 もちろん、一部のスチルやボイスは課金対象で……私はお財布事情的に少ししか課金できなかった……。

 たしか、据え置き型のゲーム機で移植版だかリメイク版が出たらしいけど、それもお財布事情的に買えなかった!


 だって、私、――――だったし……ってあれ?

 ゲームに関することは思い出せるんだけど、お母さんの顔も前世の自分の名前も思い出せない。

 それって寂しいことのはずなのに寂しさもわかない。

 そういった前世の感情はすべて置いてきちゃったみたいで不思議な気分になった。


 今の両親や兄弟が優しいから、上書きされちゃったのかな。

 私はすんなり今世の自分……ガーター商会の娘、アーシュラ・ガーター……を受け入れることができた。


 ぼーっと『白バラの門』を眺めていたら、ふわふわとウェーブがかったピンクブロンドの髪に神秘的なアメジスト色の瞳をした美少女が目の前で転んだ。


「きゃっ!」


 そこへ居合わせた黄金色に輝く髪と透き通るようなエメラルド色の瞳をした超絶イケメンが声を掛けて助け起こした。


「キミ、大丈夫かい?」


 そうそう! これだよ、痺れるような低音ボイスだよ!

 ゲームがスタートするとプレイキャラクターであるヒロインが『白バラの門』の前で転んで、攻略対象であるこの国の王太子……デリック・ノーランド殿下に助けられるんだよね。

 なんで王太子がこんなところにいるの? 徒歩通学なの? ってゲームプレイ中は思ってたっけ。


 あれ? 今、目の前で起こってるのって課金しないと見れない【デリック殿下との出会い】のスチルじゃない!

 私は感動のあまり、その場で手を合わせて拝んでしまった。

 ああ、いいものが見れた……。


 たしかこのあと、デリック殿下の婚約者である公爵家の令嬢……ウェンディ・イザード嬢が出てきて、ヒロインに説教するんだっけ。


「まあ! このような場所で転ばれるなんて……殿下の身に何かあったらどうなさいますの? 気をつけてくださいまし」


 そうそう! これだよ、この鈴が鳴るような声だよ!

 この声でちょっと斜め上な感じのお説教をするんだよ!


 お説教をしていたのは、王太子と同じ黄金色に輝く髪にガーネットのように紅い瞳を持った胸の大きい美女で、扇子で口元を隠しているあたりが上品な色気を感じさせる。


 すごい!

 こんな短時間で三人もゲームのキャラクターを見られるなんて!

 私ってついてる!

 手を合わせて拝んでいたら、ぽんっと肩を叩かれた。


「アーシュラちゃん、いつまでそこにいるの?」


 声を掛けてきたのは、いつもぼーっとしている私の面倒を見てくれるとてもできた幼馴染のスージー。

 もともとはお隣のパン屋さんの娘だったんだけど、今はタルコット子爵家の養女。

 薄茶色の髪とオニキスみたいに黒い瞳をしたミニチュアダックスみたいな雰囲気の女の子。


「あ、スージー! おはよう。貴族の人たちってきれいだなって思って~」

「はい、おはよ。きれいなのはわかるけど、このままここにいたら遅刻するよ」

「そうだね。そろそろ行こうか~」


 スージーに言われたにもかかわらず、私はまたしてもぼーっと『白バラの門』を眺めていた。


 私は……ガーター商会の娘。こげ茶色の髪と瞳、十人並みの容姿、人より魔力が多いだけの平民(・・)

 ゲームに登場する人物はほぼ全員、貴族(・・)


 つまり、私は脇役でもない、背景のイラストにも載らないようなモブ。モブ以下かもしれない。


 ……うおおおお! 神様ありがとう!!

 魔力のある平民にしてくれて、ありがとうう!


 私は貴族みたいに、家に縛られて好きでもない男性と政略結婚をして子を残していくとか、難しい政治や経済の勉強をして国のために働くとか、本音を隠して愛想を振りまいて騙し合いのようなお茶会を開くとか……とにかくそんな不自由で大変なことしなくていいんだ!


 貴族よりも自由な平民の身で、『ゲームが忠実に実写化されていく様子』を特等席から観察したり、大好きなお菓子作りをして生きていくんだ!

 あ、ついでに相性の良い男性と結婚できればいいな。


「アーシュラちゃん、置いていってもいい?」

「ごめん~! すぐ行く~」


 私はスージーを追いかけるように、ヴィクトリア学院の門をくぐった。

読んでくださってありがとうございます!

面白いと思ってくださった方は、感想や評価などよろしくお願いします。

誤字脱字の報告もあると助かります。


★告知★

「生まれ変わったら第二王子とか中途半端だし面倒くさい」という小説を書いてます。

しれっと書籍化もして二巻発売中です。

もしお暇でしたら、そちらも読んでくださると作者のやる気につながります。

よろしくお願いします!

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