9. ライフがゼロが比喩じゃなかった
全く話したらわかる系じゃなかった。
むしろ、話したら悪化した。
え、このご時世で、一族郎党皆殺しって本気で言ってるの!?
完全に呆然自失状態になっていたそのとき、ピロンと音が鳴った。
同時に、スウェットに入れていた携帯が震える。
ちょっと焦って、携帯を布の上から押さえる。
この状況で俺の携帯、鳴っちゃうの?
もうちょっと空気読もうよ、今、大変なときなのよ?
さすがに今の状況で携帯を取り出して見る気にはなれない。
メッセージアプリの受信音だから、誰かから何かのメッセージが届いているんだろう。
まあ、電話の着信じゃないし、いいや。
そう思ったのだが――。
――ピロン。ピロン。ピロン。
めっちゃ、メッセージが届いてるんですが。
「坊、どうぞご確認ください」
さっき物騒なことを言った凶悪フェイスが、親切面して勧めてくる。
携帯なんか見てる場合か! と言いたいが、言ったところで俺のほうからこの状況を発展的に進める手立てはないわけで――
時間稼ぎにもならないけど、お言葉に甘えて携帯を見ておくか。
なにかめっちゃ急用みたいな感じだったら、それにかこつけて逃走できるかもしれないし。
もしかしたら、俺の危機を感じ取った警察からの救助信号かもしれないし。
もしくは、あのえげつないじいさんから「ドッキリ成功!!」という阿呆なメッセージが届いているかもしれない。
いや、ぜひそうであってほしい……
そう思った甘ちゃんの俺を、誰か殴ってほしい。
「……え? 親父から? 珍しいな」
首を傾げながら見た文面に、度胆を抜かれた。
『純太、今、会社がテロリストの襲撃を受けています』
『ごめん、もう会えないかもしれない』
『孫の姿を見てから死にたかった』
『不甲斐ない父親でごめんな』
『――おまえの幸せを願ってます』
「ぎゃー!!!!!」
ガチで叫んだ。
あわててリアルタイム検索をかけたら、父親の会社が謎のテロリスト集団に襲撃を受けている。
呆然自失として目の前の凶悪面を見ると――えらく麗しい笑顔で頷かれた。
「坊が約束を破ったので、一族郎党、皆殺しですね!」
爽やかに言うことか!!??
「ストップ! ストップー!!! 頼むから、ちょっと待って!!?」
「何言ってるんですか、坊。坊の選択の結果ですよ」
「いやだから待って!? 頼むから待って!? ちょっと考える時間をちょうだい? 今、俺、マジでテンパってるから」
土下座すると、凶悪面は渋い顔をしつつも、頷いた。
「仕方ありませんね……」
ほっとした瞬間、また携帯がピロンと音を立てた。
目の前の男に促され、画面を見ると――
『一人ずつ殺されることになりました。お父さんは十人目です。一分に一人ずつ殺すと言っています』
なに、この死へのカウントダウン!!!
考える暇すらも有償なの!!??
「わかった! わかったから!! 喜んで喫茶店を継がせてもらいますから、父さんを助けろっつーの!!! もう俺のライフ、ゼロだから!!!!」
「そうですか!」
目の前の凶悪面が、ニタリと嗤う。
「いや、よかった! ――坊の選択が早かったせいで、他の人もライフがゼロにならないで済みましたね!」
いや、リアルでライフがゼロになったら、死ぬってことだから!
ヤクザって、ヤクザって……ほんっとーえげつない!!!