8. えげつなさは組員にも受け継がれている
なんでこんなものにサインした、子供のころの俺!!!
そして、なんでこんなものに血判を押させたんだよ、じいさん!
え、幼稚園生だった俺に、わざわざ血を出させて押させたの?
これ、児童虐待じゃね!?
てか、一族郎党皆殺しってなに!?
「貴方の筆跡ですね? 坊」
圧力とともに迫ってくる強面に、脂汗が滲んでくる。
これ、認めたら最後じゃね……?
「い、いやあ……こんな子供の字……自分の文字かどうかなんて、わ、わかんないかなーなんて。でも、たぶん、べ、別の人が書いたんじゃないかなーと思いマス……」
「ほお……」
鋭い眼がキランと光る。
「じゃあ、指紋が一致するか確かめてみましょうか」
「え……?」
凶悪面が、床に刺さったドスを勢いよく引き抜く。
そして、俺の右手をおもむろに掴むと、そこに向かってドスを――
「おおお、俺です!!! 俺の筆跡で間違いなかったですぅぅ!!!!」
死にもの狂いで叫んだ。
てか、いくら血判が押してあるからって、その検証にわざわざ血で指紋を確認する必要ある!!??
凶悪面の男が、ふっと嗤う。
「お認めいただけてよかったです。――では、参りましょうか」
「ど、どこに……?」
「坊が継がれる店にです」
いやいや、ここで店まで行ったら完全になし崩しだよな。
てか、さっきから言われてる坊ってなんなんだろ。
「いやぁ……でも、ですね、その、俺、今、仕事を別に持っていまして……」
「J.Jキャピタルにお勤めでしたね。――ご安心ください」
ニタリ。
「退職届は提出済みです」
「あんた、勝手に何してくれちゃってんのー!!!???」
思わず叫んだ。
いや、いつか辞めてやるって思ってたけどさ!
でも、他人に勝手にやめさせられてるってないでしょ!!!
「いやいやいやいや、ないよ! こりゃないよ! そもそも幼稚園の頃の約束じゃん!? そんな今になって、仕事辞めて喫茶店継げって、そりゃないよ! こんなん無効でしょ!?」
命の危険も忘れて、必死で主張してしまった。
いや、だってできることなら転職先を見つけてから辞めたかった。
そして、その転職先はヤのつく自由業とは関係のないところがいい!!
「――っ」
次の瞬間、息を呑んだ。
前に座っていた男たちの気配がガラリと変わったのだ
「それは先代との約束を破るということでしょうか」
「いや、そう直球で聞かれると答えづらいですけど……まあ、そういうことに、なるのかな……?」
「――わかりました」
やべえ、殺されるか……?
冷や汗を流すが、男どもは頷き合うだけで、特にドスを振り上げたりしなかった。
よかった、話せばわかる系の人たちだったようだ。
「では、一族郎党皆殺しで」
「だから、なに言っちゃってるのー!!!???」