3.赤ベコの気持ちになってみた
仕事から離れた解放感あふれる土曜日の朝。
玄関扉をガンガン殴られ、恐ろしさのあまり窓から脱出しようとしたら、なんと窓の外には黒スーツ・グラサンの、いかにもその筋の男たちがいました。
グラサンをかけていてもわかる強面ぶり。
ある者には頬に、ある者には額に、傷痕がガッチリとある。
そして、首筋や手首から覗く鮮やかな入れ墨。
――ピシャッ。
思わず足を下ろして、ものすごい勢いで窓を閉めてしまった。
え、これどういう状況。
もしかして、玄関を殴っていた人と、この怪しげな黒スーツ、何か関係あるの?
っていうか、あの黒スーツの人たち、明らかに堅気じゃない気がする。
もしかして、脱出口を塞がれているとか?
いやいや、まさか。
だって、俺、善良な一市民だし。
「ウン、ただの偶然。きっとそう」
あれ、おかしい。なんだか寒気がするよ?
なんだか額には脂汗が滲んでいるような。
待て、落ち着け、俺。
冷静に考えろ。
そう自分に言い聞かせなら、狭苦しい部屋の中をぐるぐると歩き回る。
とりあえず、俺は善良に生きてきた。
そりゃ、車が全然通らない交差点で待ちきれずに信号無視をしたり、未成年のときに酒を飲んだりしたことがないとは言わないけれど、とりあえず「ヤ」の付く職業の方に金を借りたり、喧嘩を売ったり、逆にお世話になったりしたことはなかったはず……
うん、すなわち、先ほど畑にいたのは、たまたま偶然、畑を通りかかり、かつ、たまたま偶然窓から出てきた俺に挨拶をしたくなった、通りすがりの「ヤ」の人、あるいは突然「ヤ」の人の格好をしたくなった、たまたま偶然ガタイがよかった畑のおっちゃんであると考えられる。
そう自分を納得させた瞬間だった。
――ガッシャーン!!
突然響き渡った大音量に、ビクッと足を止める。
――え、なにが起きたの。
このまま何も知らないふりをして過ごしたいが、スルーするには近すぎる。
てか、これ、明らかに俺の部屋が何らかの被害にあってるよね……
ものすごく嫌な予感に駆られながら、おそるおそる音のした方向を見ると――
「わーおー……」
窓ガラスが割れてた。ええ、そりゃあ、もう豪快に。
呆然としている俺の視界の中で、ぶち破られた窓ガラスから、ゴツイ手がぬっと中に入ってくる。
その手はためらいなく窓のカギを外した。
そして、おもむろに開かれる窓。
現れたのは黒の短髪、頬に大きな傷をもった、強面サングラスのおっさんだった。
いや、ぶち破られた窓ガラスの穴からもともと見えてたけどね……
「お話があるんですが、よろしいでしょうか」
――よろしくないと言って許されるんでしょうか。
心の中でそんなことを思いつつも、赤べこのようにガクガクと首を縦に振る俺だった。




