13. 昔から怖かった
「ま、まさかとは思いますが……仁兄ちゃん?」
人違いであってほしいと切実に願いつつ尋ねた問いは、ものごっつ真面目に肯定された。
「お久しぶりです、坊。よもや筆頭舎弟の私をお忘れになるとは……」
ぎゃー、俺は無実です! そもそも子供のたわごとだったのに、真面目に受け取るじいさんがおかしいんです!
番号を振ったって、それを入れ墨として入れるなんてありえんだろ!!
他の連中も、あの時、俺が一方的に決めた舎弟の皆さんだった。
じいさんよ、子供のたわごとに人の人生巻き込むなよ……
「なんつうか、その――――ホント、すんませんでしたー!!!」
心の底から土下座した。
が、すぐに引き起こされる。
「やめてください、坊! 俺らは、あのとき坊の舎弟になれてうれしかったんです!」
「そうっすよ! あのとき、めっちゃ他の組員に羨ましがられたんすよ!」
「そうっすそうっす! 先代が、『坊の舎弟になりたきゃ、今選ばれた連中を殺して成り上がりな』とかいうから、めっちゃ狙われて、それを返り討ちにしているうちにめっちゃ強くなりましたし」
「幸運にも手に入れた坊の舎弟の立場、他の奴らに渡すわけにはいかないっすからね! 命かけてでも守りますよ!」
そんなもの、ドブに捨てていただきたい。
「坊は相変わらずえげつなくて、容赦なくてカッコよかったです!! まるで先代みたいでした!!」
追い打ちをかけられた。
あんな根性の悪いじいさんと一緒にされるなんて、死にたい……
しかし、これからどうしよう。
この人たち、俺の舎弟か……腕に番号まで刻まれて、「いや、俺、関係ないです」って言ったら、ホント人でなしだよなぁ……
チラッと目の前にいる仁兄ちゃんを見る。
その視線に気が付いたのか、わざわざサングラスを外してこちらに笑いかけてくれた。
――ニタリ。
ぞわっとした。
ああ、このものごっつ怖い笑い、確かに仁兄ちゃんだ。
初めて見たときには泣き叫んだなー……
こんな寒気の走る笑顔、めったにないのに、どうして忘れてたんだろう……ウン、多分あれだな、あまりの怖さに自動消去されたんだな、夢に見そうだもん……
――強面で、笑顔も超怖いけど、仁兄ちゃんが、ものすごく俺と遊んでくれたことは覚えている。
じいさんにボコボコにされたときに慰めてくれたのも仁兄ちゃんだったし、俺に回し蹴りとか教えてくれたのも仁兄ちゃんだった。
「私の教えた回し蹴りの威力が上がっていて、驚きました。さすが坊」
――ああ、これぞまさに黒歴史……
「そういや、皆さん、すげえ制圧力でしたね……喫茶店のときも抗争が起きてるっていってましたけど、お客さんたちもその筋のひとたちなんでしょ? よく鎮圧できますね」
そう言うと、強面の連中が、てへへと照れたように笑う。
「いやあ、おれら北村組は、このへんではちょっと名の知れた武闘派組織ですから」
そりゃ、すごい。
――てか、ホント、なんで喫茶店やろうと思ったの?