親父との会話
不穏な空気を感じたらしい父の救いの一声で、昼食が始まる。
少し早い夏野菜の煮びたしに、そうめん。
あっさりとした食事はいっきに疲れた胃に優しい。
食後にお手製の羊羹と麦茶を堪能し、さてそろそろ帰ろうか・・・と思ったときに、リュックに手が触れた。
すっかり忘れてたわ。
ビンをポケットに忍ばせ、流しで洗い物に立つ親父の横に並ぶ。
親父はこう見えて、中学校の理科の教師だ。
きっと何かわかるだろう。
だがしかし、話の糸口が見つからない。
考えあぐねていると、
「最近どうなんだ?」
視線は洗い物に注いだまま、変わらぬ優しい声で語りかけてくる。
「あ~。まぁまぁかな。」
仕事にも不満はない。
人間関係もそれなりに。
たわいのない日常の報告。
それなのに、この親父様
「なんか、困ったことでもあったのかと思ったぞ」
ときたもんだ。
なんだってうちの親はこう鋭いんだ。
「あ~・・・。」
隠していてもしょうがないか。
「あのさぁ。ウズラの卵って、孵るんだっけか?」
少し遠いところから攻めてみる。
「・・・スーパーのかい?」
8%くらいだったかなぁ~と今度は天井を仰ぎながら答えてくれる。
「それがどうかしたのかい?」
いつの間にか食器は洗い終わっていたらしい。
手を拭きながら、こちらに向き合い、目を見てたずねてきた。
大事な話は相手の目を見て。
変わらぬ我が家の掟である。
これなんだけど・・・とビンを見せる。
あぁ、どう見たって雛じゃないのはわかっているさ。
親父は不思議そうにビンを眺めて、
「空っぽだよ?」
と言った。
あれぇ???