休日なのに・・・
翌朝
結局、昨晩は恨めしげな眼に負けて、ビンを冷蔵庫から出した後、ぬるめのお湯でビンごと湯銭にかけてやることで、恨みがましい視線からは解放されることができた。
電子レンジも考えたが、卵って確か爆発したよな?とか考えると恐ろしいのでやめた。
ちなみにお湯の温度は40℃程度にしておいた。あまり熱くするとゆで卵になりそうだったから。
そしてそのままテーブルにて室温に放置。エサ?知らんがな。
朝日を浴びるテーブルからビンを持ち上げると、心なしか、ぐったりしている。
はて?
温度は大丈夫っぽい。エサは・・・わからん。水か?溶けそうだな。と考えてふと思い当たり、ふたを開けてやる。逃げ出す気力もなさそうだ。
新鮮な空気がビンを満たすと、深呼吸でもするように黄身が膨らんではしぼむのを繰り返した。
とりあえず、呼吸は必要らしい。ラップに穴をあけてかぶせておこう。
さて。昨晩のうちに連絡はしておいたから、早々に向かわなくては厄介なことになる。
問題は交通機関だが・・・
危険物ではないと思うが、電車はなぁ~。
目的地は電車で二駅。そこからバスで40分。バス停から歩いて20分
しばし悩んだ後、自転車を選択した。
まぁどうにかなるだろう。
どうにかなると思っていた30分前の自分を殴り飛ばしたい。
梅雨の晴れ間の今日はそれなりにいいお天気で、絶好のサイクリング日和なのだろう。
だがしかし。
10年前は平気で登れた駅からのバス道路が、きつい坂道として自分の前に立ちふさがっている。
「遠いなぁ・・・」
遠く山の上にそびえる三角屋根を見上げる。
目的地はまさにそこ。
離れて久しい実家だ。
「帰りてぇ」
家でごろごろしていたい。
録画したままのドラマみたい。
布団も干したい。
そうだ。具合が悪くなったことにすればいいじゃないか。
善は急げと、自転車の向きを変えたところで、目に飛び込んできたのは、サンダル履きの小さな足。
恐る恐る目を上げると、小柄な女性がいい笑顔で立っていた。
「・・・は・・・ははっ母ちゃん、久しぶり~」