ー第6幕ー
イザベルが帰還した翌朝のデュオン皇室は騒々しかった。光り輝く謎の女人がイザベルを運んで帰ってきたこと、そしてその女が神を名乗っていることに話題が絶えなかったのだ。
イザベルは寝起き早々、第2代国王バークレー・デュオンのもとに参じ、事の顛末を話した。無論ハシムらカテリーナ寺院高僧らがアヴェーヌ諸とも葬ろうと企てたことも含めて。
「ふむ、そうか……あまりに突飛で現実的な話ではないが、魔術や超人術が多用されるこの世だ。得体の知れない物をダリル達が生みだしていたとしても不思議な話ではないな。して、あのアヴェーヌという者、戦闘に長けているのか?」
「戦闘と言いますと?」
「イザベルよ、お前もわかっているようにバグラーンとの戦争はもはや避けられぬ。不思議な力で寺院の高級化を成し遂げたのなら、たとえば超大量破壊兵器を創ることもアヤツにできるのではないか?」
「国王様、私には分かりかねますわ。ただ“契約者”となれば、国王様のお望みどおり、どんな力でも発揮される者かと思います。国王様こそが――」
「アヤツと契約しろというのか?」
「左様でございます。私共よりも必ず国王様の手となり足となりデュオン公国を末長く支える支柱となりましょう」
「ふふ……ふざけるな!! こんな朝から敬語の1つも使えない無礼者だぞ!! あんな明らかに人に相応しくない使いを膝元におけるか!!」
「しかしですよ! 彼女の非科学的な能力を以てすれば――」
「口を慎め! 貴様忘れてないだろうな? 貴様の命はキシリナに護られていること、そもそも儂らに内密でカテリーナ寺院にむかったことを」
「!!」
「かといってあの女の力を見くびっているワケではない。利用できるのならば、とことん利用してやるというものだ。ならばすることは簡単だ。これからもお前がアヤツの契約者となり、この国を統べる力となるのだ。儂に仕事をさせるなよ」
「……畏まりました」
「ん? 何だ? 不服か?」
「いえ、わが命、基からデュオン公国の為に授ける所存でございます」
「そうなら丁度いい。今宵、ギレヌの下にて御前会議を行う。アヴェーヌとやらを連れてこい。お前こそが仕事をするのに相応しい立場にあることを忘れるなよ」
「承知しました」
イザベルの思惑、いや願い通りにはいかなかった。どうやら神という存在を背負い、これからの執務に準じなければならないようだ。もとより無神論者の彼女にとって、それは何よりも耐えがたい苦痛であった。アヴェーヌはデュオン城より差し出された食物をたいらげ続けていた。イザベルは溜息をつき、それをそっと見守った。この女神を名乗る者、本当に自分の言うことを聞くというのか?