ー第5幕ー
馬車の中でイザベルとアヴェーヌは語らいを交わしていた。
「3日!? そんなにかかるのか!? 其方、それなら空を飛んでいった方が早かろうに。今でも遅くない。妾が連れて行ってさしあげよう!」
「目立ちますわよ! そんなことしたら! キチンと安全な道を進むに越した事はないと貴女は思えませんの!?」
「これが安全な道か? それなら一つ忠告しておこうか」
「何ですの? 神様のお告げとでも?」
「ああ、妾は其方の言うように基本的に死ぬことはない。しかし契約主が死んだのならば話は別だ」
「え? どういうことですの?」
「そのような仕組みになっているという事だ。そしてそれをダリルはよく知っている。そしたら奴はどんな行動にでると思う?」
「え、そんな、まさか……!?」
「まだ間に合うぞ。今すぐにこの馬車を止めろ」
「マーバル、運転を止めなさい!!」
馬車の運転手であるマーバルはイザベルの一声で運転を止めた。しかしドアは開かず、アヴェーヌとイザベルが窓から宙を浮いて出てきたのにただ驚くばかりだった。
「すみませんが、女神様の力を借りてトリノまで行くことに決めましたの。貴方は貴方でこの馬車を予定通り運送してください。ボーナスも加えて差し上げますわ。ちょっと物足りないでしょうけども」
「は、はぁ……イザベル様が宜しいのであれば、しかしボーナスだなんて……」
「今の世情が世情にという事情を配慮して。無事に帰ってらっしゃい」
「はい! わかりました! イザベル様こそ、どうかご無事で!」
このやり取りを交わした5分後、馬車は何者かが仕組んだ爆発によって木っ端微塵に破壊された。はるか上空でイザベルは衝撃を受け、アヴェーヌは手を合わせてマーバルの冥福を祈った。
「やはりな、マーバルも避難させるべきだったの」
「そんな……こんな事って……ハシムめ……!!」
「落ち着け。今からマーバルの弔い合戦をしにいったところで、しょうもない爺の首一つとれるだけだ。それより其方の陣の王に妾のことを上手く紹介願いできるか?」
「え? こんな状況でいきなしそんなことを……何故言うのであります?」
「方角さえ教えて貰えればどこへでも神の速度で行けるのだ。言え、早く」
「ここよりはおそらく東……いや北寄りの北東になりますわ」
「よし、妾の身体にしっかりと掴まれ。急ぐぞ?」
「え? これで今からどうする……うわっ!!!」
その速さはこの大地・空・海に生きる動物で最も速い速さを誇っているようであった。今、アヴェーヌから手を離せば異常に強い風圧に身体が引き裂かれるに違いない。そう思ったイザベルはひたすらに高速移動するアヴェーヌの体にしがみつき、ただ身をまかせるのであった。
やがて激しい風当たりもなくなった。陽はすっかり沈み、馴染みのある風景がその目に見えた。デュオン城だ。このアヴェーヌという人間のなりをなした者は只者ではない。これからのことが思いやられるが……。イザベルは超人な女神の背中にもたれかかったまま、眠りの中へと入っていった――