ー第4幕ー
キリアン邸にて約10年ぶりに顔をだす者が現れた。
「様変わりなんてしませんわね。ここは」
馬車から降りたその女はどこか余裕を持った微笑みをみせた。
冷血の紅姫と謳われたイザベルは女王の待つ応接室へ召使と向かった。
応接室ではとても老け込んだキリアン・デュオンが紅茶を啜って待っていた。
「ご機嫌は麗しゅう? キリアン女王陛下」
「おお、イザベル。若い時のままだな。とても一般人していたように見えんぞ?」
「キリアン様、ひとつ断っておきたい事がございますわ」
「何だ?」
「私は公務に戻る気はありません。その旨、どうか御理解くださいまし」
「ふふ、いきなしその話はせんよ。まず、アタシはお前に協力したいだけだよ」
「協力?」
「ああ、お前の復讐への協力だ」
「!?」
「ホシはわかっている。お前とてそれが為に来たのだろう? まずはやるべき事、それをやるのだ。それから先のことはそれから話そう。そう手紙に記したぞ?」
「順番が変わっても……」
「焦るな。アタシがお前を必要としているのは本音さ。それは素直に言うとも。でも今のお前の気持ちではその話し合いすらままならない。まず知りたいだろ?」
「ええ、今はただ真実を知りたいだけですわ。そして私の手でケジメをつけたく思いますの」
「ま、アタシもお前を傷つける奴なんて憎いだけだからね。テレス、ドロシーの奴を呼んでくれ」
「!」
その名にピンときたイザベルがいた。ドロシー・ハサウェイ、水晶玉で過去にあった事実を映しだせる魔女。かつてバラグーン軍に仕えていたが、戦後はキリアンにその力を見いだされてギリー失脚を成す立役者となった。
応接室に入ってきたドロシーは随分やつれていた。贅沢な暮らしなどしてないようだ。魔女狩りに怯えるそこら辺の魔女と同じか。イザベルは苦笑いをした。
「イザベルよ、アンタ本当にこれをみる覚悟があるのかい?」
「何を今更、舐めてもらっちゃ困りますわ」
「わかった。ドロシー、あの場面を映してやりな」
「かしこまりました」
ドロシーの水晶に浮かび上がったのは2人の男がオスカルとソムを殺していく場面だった。銃発にて1人に3発。イザベルはショックよりも怒りが込み上げていくのを感じた。そしてその男たちは彼女にとって見覚えのある者たちだった――
応接室にイザベルの発する力のこもった声が響きわたった。
「テッシモ……アルテッシモ……!」
「動機は明確さ。10年前、お前がコイツらに施した拷問に対する腹いせだよ」
「キリアン様、事実をお話しくださいまし。彼らが今どこで何をしているのか」
「アヴェーヌの監獄をこないだ出所したばかりだからね。名前はさすがに変えていると思うが、どうやらアルカリ市の市長選に出馬するらしいぞ。テッシモが」
「市長選に出馬!?」
「どうやって出馬したかは知らないよ? でもハローズパーティで重役を担っていたとも聞くし。案外放しちゃいけない奴らだったのかもねぇ……だとしたら、すまないね。お前を苦しめることに加担してしまったワケだ」
「………………」
「ああ、でもいい助太刀をやるよ。アソーを連れていきな。アソーの名前であの2人を呼びこめる可能性はあるからな。どうだ?」
「考えさせてください」
そう言うとイザベルは立ちあがり、暫く窓からカドゥラ湖を眺め始めた――




