ー第2幕ー
オスカルとソムの葬儀は翌々日行われた。
身寄りのいないイザベルとオスカルであったから、葬儀の参席者は村に住んでいる者達ばかりだ。しかしその輪の中に馴染みのない顔が一つあった。イザベルは気が進まなかったが、名前の知らないその女に声をかけてみた。
「あの、貴女、誰でございますの?」
「アリス・マグアイワです。女王のもとで学者をしている者です。えっと、このたびは……たいへんにお悔やみを申し上げます」
「記憶におぼろげながらありますわ。確か新聞にその名前が載っていましたわね。ただ、私のことは皇室で内密にされているはず。何故貴女がここにいらして?」
「場所を変えましょう。ここでは私の素性がばれて騒動になりかねませんから」
「………………」
イザベルは葬儀が済むとアリスとコンタクトをとり、彼女の住む仮住居へ案内した。仮住居は夫婦の手作りで作った、所謂小さなボロ屋だった。
「こんな所で住んでいるのですか!? 雨なんか降ったらどうするの!?」
「人の心配なんてしなくて結構ですわ。葬儀に参列したワケを教えて下さいまし」
「ええ、そうね。本当なら私でなく女王様ご本人が行きたいと言われていました」
「!?」
「端的に言えばそう、私はこれを渡すように女王様から頼まれたのです」
アリスは懐から1枚の手紙を取り出してイザベルに渡した。イザベルはじっと未開封の手紙を見つめた。
「手紙を読むも読まないも自由です。ただ心が許せるのなら、一度アヴェーヌに戻られてみてはいかがです? レイジ警察を馬鹿にするつもりはございません。でもこの事件、明らかに見えない闇が動いているように思います。私たちこそが何か力になれるかもしれない。この無念を晴らしましょうよ!」
「帰りなさい」
「え?」
「帰りなさいと言っているでしょう! 帰れ! この無礼者!」
イザベルはアリスの胸座を掴んで彼女を揺らし、そのまま投げ飛ばした。
「す、すいません!」
アリスは恐れ慄き、そのまま走ってどこかへ走り去っていった。癇に障る女だ。昔の自分なら拳銃を使って脅しを効かせていたかもしれない。
気がつくと案の定あの女が言うように雨が降ってきた。木でできただけのボロ屋である。雨漏りが防げないのはわかっていた。だんだんと雨漏りの雫が滴り落ちて手紙を濡らす。気が進まないのは確かだが、気になるのも確かだ。
イザベルはキリアンの手紙を読んだ。そしてその時に決心がついた。




