ー第8幕ー
ラッセルは目を覚ますと見覚えのある酒場の酒蔵にいて、椅子に括り付けられていた。隣には馴染みある女秘書が彼と同じ状態にして括りつけられていた。
「シビラ? シビラか?」
「ラッセル様……」
「よぉ、目が覚めたか? 親分よぉ?」
シビラはひどく衰弱しているようだ。その再会を打ち消すがごとく、ラボルがアスキン殺害に加担した酒場の店主を引き連れて現れた。よく見ると腕を組んで状況を見守るアソーの姿もあった。
「てめぇら……何の真似だ!? ああ!? わかっているのか!? こんな真似をしたらタダじゃおかねぇぞ!!」
「タダですまねぇのはテメェだ! ゴラァ!!」
コロンソはその強烈な右拳をラッセルの顔面にかました。
鼻血を流すラッセルをゆっくりと眺めつつ、ラボルはラッセルたち眼前にある椅子に腰かけた。
「よーく、話を聞け。いいか? バグラーン戦争終結のあの日、バークレー国王を殺したのは誰だ? アルマか? 違うな。お前はそれを知っている筈だ。それを俺に話してくれ。そうすれば、あそこの女神様が楽にしてくれるとのことだ」
「アルマに決まっているだろ。変な事でっちあげる気か? この豚野郎。おい、そこの女神風情、てめぇも同罪だ! 覚えていやがれ!」
「悪いな、ラッセル、あの女神は俺と契約しちゃったのよ」
「なんだと!?」
「それで色々教えて貰ったのよ。おい、俺が何も知らないと思ったら、そりゃあ、大間違いだぞ? わかっているな?」
「ふふ、調子にのった豚風情に何かできると思ったらそれこそ大間違いだ。今に痛い目にあわせてくれる!」
「あーあ、埒が明かないな。おい、お前ドリル持ってこいや」
「あいよー」
部屋の片隅にいたアソーは紙袋をとりだしてシビラの顔面に被せた。
「んんー! んー!!」
「おい! 待て! 何をするつもりだ!?」
酒場の店主は電動ドリルを起動させるとラボルにそれを渡した。
「ラッセル! よく見とけ! 後でお前も同じようにしてやるからよ!!」
ラボルの持った電動ドリルはシビラの側頭部から貫通を始めた。これに衝撃を覚えたラッセルは甲高い声で叫びだした。
「わかっ! わかった! 言うよ! 思い出したんだ! だからヤメテェ!!」
ラッセルが絶叫しだした頃にシビラはもう死んでいた。袋からは夥しい彼女の血がドクドクと流れ落ちていた。ラッセルは真っ青になった顔で事実を語った。
「あの日、戦況が変わってアルマが城に帰還すると知ると、アルマと国王による撃ち合いに見せかけ、二人を殺害するとギリー様は俺に告げられた。俺も国王の護衛含めた何人かを殺害した。全てアルマがやったことにすれば済む話だからな。このことは俺とギリー様しか知らない。言いふらせば俺は殺されるから。それにこれを秘匿しておくことで、俺は永遠の立場を約束されるからな。もう、いいだろう? これぐらいで」
「それだけか? そこの女神からは今からしようとしていることも聞いたぞ?」
「クソッ……わかったよ。話すよ。国王様は東部より西部に人口が集中して、国を尊ぶ姿勢が崩れているのを憂慮しておられた。だから、キリアン女王とイザベルをトリノに呼び、暗殺する計画を練った。俺、シビラ、アスキン、クーリオ、そこの女神に話した。だけどアスキンは周囲に言いふらしていたから始末した。だからテッシモとアルテッシモの2人も知っている……ハァ……ハァ……もう、いい加減にしてくれ!! これ以上こうしていたら、まともな神経でいられない!!」
ラボルは拍手をして「よくできました」と椅子から立ち上がった。
「お、おい、もういいだろ!! 命ぐらい、ギアァッ!?」
ラッセルの首はアソーの黒刀によってアッサリ斬り落とされた。
「こりゃ凄いなぁ。お客さん、後片付けはしてくれよ?」
「わかっている。主よりその指令も私が授かっているよ」
「そうかい、アンタ、噂で聞くより黒い感じの神様だな」
「まぁ、一仕事さ。コイツの主はあの有名な冷血の紅姫だからな」
「ふむ……噂には聞いていたが、すると冷血のマフィアだな。アンタは」
「あ? 褒め言葉か? まぁ、いい。このやり方は一応コイツに教わったからな」
ラボルはそういうと転がるラッセルの生首を蹴り、酒場を去っていった――




