ー第4幕ー
「私たちを殺しに来た!?」
「………………」
「はい、そのように申されています。私は殺されずに済みましたが……」
キリアンとイザベルは言葉を失った。
まさかの用件だった。重たく言葉にしがたい空気が部屋を静かに浸食していく。この空間に何も知らないアヴェーヌがあっけらかんと入室してきた。
「お~? どうしたのだ? そんな辛気臭い顔を皆で並べて」
「アソー様が私とキリアン女王を処刑しに来たと申されたそうですわ」
「え? アソーが? そうか、まぁ、通してやるが良い」
「何を仰いまし!? 彼女の目的が何なのか聞けませんでしたの!?」
「敵が来てウジウジ話をしているだけとは情けのない敵陣だ」
「!?」
振り向くと黒刀を抜いたアソーがイザベル達の眼前に現れている。
「おう、アソー、久しぶりだな。まぁ、決闘前に茶でも啜り給え」
「承知しました」
「え!? そこで座りますの!?」
イザベルが怒ったようにツッコミを入れるが、構うことなく二人の女神は茶を啜った。そして……
「「ぷっ……ぷぷっ…あっはっはっはー!!」」
アヴェーヌもアソーも爆笑ともとれる大笑いをしていた。二人とも腹を抱えていた。イザベルもキリアンもただわからなく、ただ呆然としているだけだった。
「アヴェーヌ様、これは一体どういうことですか?」
「殺しに来たのはアソーでないよ。アソーを雇った人間の意志だ。それを伝えに遠路はるばるコヤツが来ただけの話だ。しかし悪ふざけにも程があるぞ、其方よ」
「気絶はさせましたが、シビラと言う遣いも同行しており、意識が万が一戻った場合に備えての演技にあります。彼女の気配はこの度の旅で掴んでいましたので」
「もうっ! 話が全然みえてきませんわ! ハッキリ教えてくださいまし!」
イザベルの言葉に溜息で反応を返したアヴェーヌが事の転移を説明した。
「其方らはわかっていないのだろうが、女神と契約を交わした神官たる者はその女神の『天使』となるのだ。これはその女神が消失するまでの契約となる」
「え、それってつまり……」
「ギリーとコヤツが契約したのは仮初めに過ぎん。コヤツに色々聞けばわかるのだろうが、おそらくはギリーが何らかの方法をもって妾達を葬ろうと企てたのだ」
「作戦ではイザベル様とキリアン様をトリノに呼び出して、ラッセル配下の民間武闘組織『ハローズパーティ』に暗殺させる目論みでした」
「な、何て言うことですの!?」
「ふん、兄者め、騙されていることも知らずアタシたちに嫉妬していたとは……」
キリアンは腕を組みながらも、女神と天使の座るソファーに腰掛けた。
「それでどうするのさ? アタシはまんまと間抜けな国王風情なんかに殺されてやるつもりは毛頭ないぞ?」
「それは妾の契約主である者の意見を伺うに他ならんな」
一同の視線がイザベルに集まった。まさかの事実にただ驚愕してばかりの彼女だったが、だんだんとするべきことは見えていた。そしてその瞳はかつて開戦を提案した彼女を思い出させるかの如く輝きはじめた。
「決まっていますわ……やられたらやり返す。倍返しですわ!!!」
イザベルの言葉にそこにいた女王と女神、そして天使が奮い立った――




