ー第1幕ー
ここのところアヴェーヌ西域にて、黒い噂が蔓延するようになった。コロンソ・ラボルという軍人下がりの若者が『コロンソ・ファミリー』なるマフィアチームを形成し、西域の各村を多く制圧していると言うのだ。彼らのやり方は残虐非道で、歯向かったものは軍人であれ何であれ、五体バラバラにして親族の家の前に見せしめにして置くというもの。表立った組織でなく、彼らとつるむ将校たちも少なくいることから、彼らの暗躍を助太刀していた。お陰様でアヴェーヌ西域の庶民の間で麻薬と偽札が蔓延し、大きな社会問題となってしまっていた。
この日、元リンカーン邸にあたるキリアン邸で御前会議が行われた。参席したのは議会主にして国家最高顧問のイザベル・ラベルス、アヴェーヌ女王キリアン・デュオン、軍元帥ドグマ・デュオンの3人であった。女神アヴェーヌは庭先にて園芸を召使の者と楽しんでいた。
「しかしまいったものですわ。ドグマ、関係者と疑わしき者はわかりませんの?」
イザベルは32歳となり、ラベルス家の処刑以降は黒いサングラスを愛用するようになった。もはや彼女がマフィアとみられてもおかしくないナリである。
「はぁ……疑わしき者はいることはいますが、確証がなく、また者によっては軍の統率にも多大な影響を与えかねません。何というか……申し訳ないです」
ドグマは55歳となり、より恰幅の良い軍人となった。今ではすっかりアヴェーヌ信教の熱心な信者となり、カテリーナ寺院の最高高僧を任せてもいいのではないかという信仰ぶりだ。
「また結論がでないと言うのかい。呆れたものだね。アンタ達、軍のクセに戦争しても役に立ってないじゃないかい。こんな時ぐらいしっかりしなさいよ!」
キリアンは67歳となり白髪が目立つような老獪な女王となっていた。後釜としてドグマの妻であり実の妹にあたるカテジナ、またそのカテジナの息子であるウッソの名前をあげている。しかし女王としてはまだまだ健在な気力に溢れてもいるようだ。
「誠に申し訳ない限りです、女王陛下。しかし我々もどうか相談がしたいのです」
「アタシに何ができると言う? 本当に困っているのはどこの誰かよく考えな」
「…………今日はここまでにしましょうか。最悪の場合によって、トリノの陛下関係者に協力の要請かけましょう」
「何がトリノの陛下関係者だ! アタシは嫌いだよ! あんな奴! 何もしないクセに偉そうに国王になりやがって! この問題はアンタたちで何とかしな!」
「承知しましたわ……ドグマ、ごきげんよう」
イザベルは紅茶を啜り、溜息を零した。国は明らかに疲弊していた。神の力もまた疲弊していた。ここのところのアヴェーヌは芸術文化に触れることで楽しみを見いだしており、その能力の使用はできたとして、手品程度のものにしか過ぎなかった。何よりもイザベル自身が疲憊しているのが本当の本音であったのだ――




