ー第3幕ー
その夜は激しい落雷と大雨に見舞われていた。イザベルとアヴェーヌはバーサル堂内に用意された豪勢な寝室にてその夜を過ごした。人間の形をしているとは言え、神と思しきアヴェーヌに細心の警戒を払って彼女と彼女は言葉を交わした。
「つまり、ハシムは貴女の力を利用して寺院の高級化に踏み切ったと」
「そうなるな。契約者である以上は妾も力を注がねばならない。様々な条件を叩きつけてきての。やれ洞窟からでるな、血は月に1度しかよこさないわ……」
どうやら人間(契約者)の血を飲み、精を営む生物であるらしい。終始光輝いており、それが何とも非科学的すぎて理解に困ったものだ。ハシムはどうやら神の力を以てしてイザベルと結託し、デュオン家への権威進出を考えていたらしい。
「して、其方どうしてハシムという男をそんなに嫌っておる?」
「貴女ならわかる筈ですわよ? 彼の行動は一貫して私利私欲の為。昔はそうでなかったけども、今の彼の眼には民衆の悲しむ声も苦しむ顔も入ってなんかいませんわ。いつバグラーンに寝返ったとしても私は可笑しくないと思っていますの」
「ふむ、それは一理あるの。其方を利用して、デュオン家がバグラーンらに跪くシナリオなんかも考えてもおったからの。まぁ、その片目じゃ見えないか」
「ああ!? なんですって!?」
「まあまあ、落ち着け。今アヤツか妾を殺したところで、其方らの国にいる民はどう思う? ますます不信に震えるではないか?」
「それは……そうですわね」
「して、そろそろ聞こうか? 其方、妾に何の契約を設けたい?」
イザベルは雨の滴る窓を黙って眺めていた。
信じられないのだ。信じられたとしても、こんな華奢な体一つでどうにかなるほど敵の勢力は少なくない。いつ死んでもおかしくない自分が神だか何だかわからない存在に身を寄せることなどできない。でも、一応は契約者となった身でもある。それ相応の責任を感じた彼女はアヴェーヌのほうを向いて一言言った。
「私の願うことに力を貸して下さいまし。あとは貴女の自由でいいですわ」
そして雨の滴る窓を再び眺め始めた。
「左様か。それなら御安い御用だ。制約が少ないのであれば、この世界を自由に飛び回れるからの。はっはっは!」
「どこでも自由に飛び回れるほど気楽な世界でしたらいいわね」
イザベルはアヴェーヌに聴こえない声で返事を返すとそっと目を閉じた――