ー第6幕ー
カテリーナ寺院では長らく拷問を受け続けて疲弊しきったハシム・ダリルら高僧一行が寺院に帰還していた。全く精気を失った最高高僧のハシムであったが、そんな彼の顔色をさらに真っ青にさせる出来事が寺院にて待ち構えていた。
カテリーナ寺院、バーサル堂。その本堂にて待っていたのは腹心のマドラム・マースと始末したと思っていた者たちであった。
「ご機嫌は麗しゅう? ハシム・ダリル殿?」
「こ、こ、これはイザベル殿! アヴェーヌもご無事であられたか!」
「ご無事? 無事で済まない理由があったのか?」
「それはその……この度の戦で数多くの傷を負ってほら……」
「傷? 妾はこのとおりじゃ。ビンビンしておるぞ」
アヴェーヌは握った拳を振って見せた。確かに傷一つどこにもない。
「それより何じゃお前、この度の戦で民にその力を知らしめた妾を呼び捨てか? この立派な寺院を創ってみせたのは誰だ? まさかその恩を忘れたのか? おお? ダリルよ」
「恩って……あの時は私と契約していたではないか。逆恨みすることではない……」
「それでは私達が乗っていた馬車が爆発したのは何と言い訳つけましょうか?」
「爆発? 何を? わ、私どもは何もしていませぬ」
「悪いですけど、全てはこの男から伺っていますわ」
イザベルは拳銃を取りだし、マドラムの側頭部につきつけた。
「マドラム……き、貴様何を話した!?」
「………………」
「おい!! 何を話したと言うのだ!?」
「何を……って決まっているじゃありませんこと、私達を爆発事故で装って殺害しようと画策したこと、バラグーンとつるんでいたこと、新しい女神の生成まで洗いざらい全てですわよ」
「新しい女神……まさかアソーを……おい! マドラム! どういうことだ!!」
マドラムは俯いたまま何も口にしなかった。イザベルは紅茶を一口口にして、今度は銃口をハシムに向けた。
「さっきからマドラム、マドラムって、私への弁明はないのかしらね? ああ? カテリーナ寺院最高高僧とやら! ぶち殺すぞテメェ!!」
「ま、ま、お待ちください! イザベル様! 私はバグラーンどもより酷い拷問を長く受けまして、今しがたこの寺院に還ってきたばかしなのです! い、今この場で何を献上しようにもできないのです! で、でも、な、何でもします! あ、そうだ! あ、アヴェーヌ様、我が寺院は本日よりアヴェーヌ様を神と崇め奉るアヴェーヌ信教と致します! デュ……デュオン公国の為に何でも、何でも、な、な、な、何でも尽くしますから! 勘弁してくだされ!!」
ハシムはその場で必死になって土下座を始めた。
「何でもするというのかしら?」
「は、はい!」
「貴方、お象さんは好きかしら?」
「はい! キリンさん大好きです! でも象さんはもっともっと大好きです!」
「ゾウさんごっこでもしてみません?」
「へ?」
イザベルとアヴェーヌは顔を合わしてにやけた。




