ー第4幕ー
目を覚ますとそこは処刑場だった。ずっと眠らされていたらしい。マルシエは死んだが、オルバーンはどうなってしまったのだろうか? あの魔人が言った事はよくわからないことばかりで、何一つ確かめようがなかった。赤と黒の2色で彩られた旗が多くの観衆によって振られている。これはデュオン公国の国旗だ。彼女は世界がどうなったのか、ようやく理解することができた。
信じられない現実。だが信じないといけない現実がそこにあった。
リンカーン・バグラーンはギロチンの刑にかけられたのだ。すぐ横に隻眼の女がいる。女は穏やかに微笑みながら話をかけてきた。
「ご機嫌は麗しゅう? リンカーン・バグラーン様」
「お前は……?」
「イザベル・ラベルス。貴女の処刑執行人でございますわ」
「ふざけたことを。お前のようなゲス汚い者の集まりこそがデュオンなのですわ」
「ゲス汚い、よく言いましたわね。民衆を利用し、民衆を殺し合わせた貴女の御言葉でありまして?」
「私たちは軍の指令でやったことしか分からない。そこらにいる野蛮人らが言うバグラーン運動と一緒にしないでいただきたいわ」
「なるほど。それが貴女の最後の言葉と受け止めても宜しいのかしら?」
「最後の言葉……」
リンカーンは空高く構えて設置してある刃を仰ぎ見た。死ぬのだ。自分もまた死ぬのである。恐怖がないと言えば嘘になるが、もうどこか投げやりな気持ちが湧いてくるようでもあった。こんな時に綺麗ごとなんて言いたくもない。ふと、彼女の脳裏にあの漆黒の悪魔が言った言葉がよぎった。そして自然と話を始めた。
「そうね……この世界の民衆はこれからもさぞ苦しむことになるでしょう。どうやら神たる存在がとんでもない畜生に利用されてしまっているもの。そんな哀れな片目でしか世界を見られないお前には……まぁ何を言ってもわからないだろうけど。ふふ、ふふふ、アーハッハッハ!!」
革命の風雲児とされたリンカーン・バグラーンの笑い声が広場中に広がる……
その笑い声をかき消すが如く「黙れ!! この出来損ないが!!」と啖呵を切る勢いでイザベルは怒号をあげ、そのままレバーを引いた。革命の象徴と言われし女の頭と両手首は地へと落ちた。狂気に満ちた観衆はいかれ狂った歓声を広場中にいきとどろかせた――




