ーEpisodeー
アルハ高原におけるバラグーンとデュオン公国の戦争はデュオン公国の圧勝によって一旦幕を閉じた。しかしキシリナ王女の指令に従い、ドグマ率いるデュオン公国軍の一部部隊はバラグーン城への進軍を進めた。城下町の民家といえる民家、あるいは国立建立物までもがデュオンの紋章を旗にして掲げていた。
バラグーンは全滅的な敗戦を受けた。しかしそれを認めた声明はどこからも発せられていない。この事から、このたびの革命主体者であるレンプォンが逃亡した可能性を強くみたキシリナの判断であった。
しかしてドグマたち部隊がデュオン城でみたのは血に塗れた城内の惨劇だ。
「こ、これは一体どういうことだ!?」
「ドグマ元帥、イザベル准将から無線がとどきました」
「准将ではない! “国家最高顧問”であるぞ!! 改めろ!」
「は、はっ! 申し訳ございません!」
一夜の活躍によってイザベルとアヴェーヌへの待遇は激変していた。
「ドグマでございます! 無線を承りました」
「あらあら、貴方が私に敬語を使うだなんて、変な気持ちになってしまいそうですわ」
「何を仰いますか! この度の戦いでの貴女方の戦果なくして勝利はないと確信致しておりますぞ!」
「ふふ、そこまで言われるとね。ああ、いい知らせがございますわよ。今朝がた女神様がレンプォン・バグラーンを捕縛致しましたわ。明日、皆様のおられるアルハ東域要塞跡にて処刑を執行します。以上」
「はっ! か、かしこりました!!」
「それと、大人子供関係なく西域本陣に参戦した兵士にありったけの食料と賞与を授けてくださいまし。期待していますわよ、ドグマ」
「はっ! ははっ! 必ずしてみせます!」
「ではまた明日」
無線を切ったドグマは部隊兵士を引き連れてバラグーンの基地跡へ颯爽と戻り、完全勝利宣言を発令した。
『皆の者、今朝がたレンプォン・バグラーンを我が軍が捕縛した知らせが届いた! 我々の大勝利である!! この戦果で得た財は今ここにいる我々へ贈与貰えるとの事だ! 喜べ! 喜ぶのだ!! 栄冠ありしデュオンの同志よ!! 今宵はこの勝利の地で最高の祝杯としようではないか!!』
デュオン軍の兵士達は歓喜の雄叫びをあげた。続いてドグマよりレンプォン・バグラーンの処刑執行も通達された――
少年兵オスカルはただ何となくドグマ元帥の勝利宣言を聴いていた。バグラーンの財産が贈与される? 親も親の替わりもいないこの自分に? とても実感が湧かないし、信じることなどできない。しかし腹の音と一緒に彼は彼の本音を微笑みながら口にした。
「腹減ったなぁ」