ー第2幕ー
ハシムとイザベルはハシムの口答による誘導にてバーサル堂近くに作られた洞の中へと入っていく。こんな所に作るとは……演出をするにしても出来過ぎている。やがて二人は洞奥深くの暗闇の中へと入る。下へ下へと降り、わずか5分足らずで光明が灯っているのを確認した。その光明は松明によるものでなければ、ランプによるものでもない。1人の美女が光り輝いているものだった。
「ん? ダリル殿か?」
彼女はこの小洞窟の壁にもたれかかっているようだ。壁には白いペンキで幾重にも複雑な魔方陣が架かれていた。そこに僅かながら誰かの血痕がついてもいた。
彼女が起き上がる。その恰好はデュオン家令嬢もレンプォンも羨むほどの綺麗なシルクと貴金属のアクセサリーに包まれていた。魔女か? 超能力者か? 或いは何かの亡霊か? 見当がつかないが只者でないのは確かだ。
「アヴェーヌよ、こ、こちらがイザベル・ラベルス様でござるぞ!」
「そうか。はじめましてか。イザベルとかいうの。第七惑星より使命を授かったアヴェーヌ・シンドゥーと申す。宜しくつかわす」
アヴェーヌはスカートの裾を持って一礼をした。それと同時にイザベルは銃口を女神だと名乗る女に向けて、躊躇なくその引き金を引いた。しかし銃弾は突如出現した謎のベールに弾かれて焼失した。
「銃弾が効かない?」
「な、何をなさいますか!? イザベル殿! お相手は召喚した女神ですぞ!!」
「はっはっは! 随分と御乱暴な挨拶をしてくれる令嬢だな。妾はこの者と契約してみたいぞ!」
「契約?」
「ち、違います! その話はどうでもいい話です! デュオン公国がバグラーンに攻めこめられているお話をしま……えっ!?」
イザベルはいつの間にか銃口をハシムに向けていた。
「こちらの女神様を呼びだした経緯をお話くださいまし。女神様にお力があるというのであれば、それはデュオン公国に授けるものであり、貴方の私利私欲へとむけるべきものではない筈ですわ」
「はっはっは! 気に入ったわい。イザベルというの、もし新たな妾の契約者をなりたいのであれば、其方の血をよこせ。魔方陣は既に完成している。あとは妾が血を一飲みするだけで完了だ!」
「信じ難い話ですわね。でも信じ難い現象をこの目にした以上、やるしかないですわ」
イザベルは銃を懐に仕舞うと、ナイフをとりだして自身の指を切った。そしてアヴェーヌにそれを見せる。アヴェーヌはゆっくりとイザベルに近寄り、それを啜った。既に腰が抜けて観念しているハシムはただ傍観するだけだった――