ー第7幕ー
アルハ高原の陽が沈み始めた時、最悪の知らせがバグラーンの本陣にとどいた。6中将及び2中将の部隊が殲滅、それを遂げた謎の土砂とゴーレムが西域本陣に迫ってきていると言うのだ。さらにはその後にデュオンの軍勢が続いているとも伝えられた。
「………………」
「………………」
オルバーン将軍もセシル大将も言葉を失った。敵は勝利に貪欲だ。逃げ場もない。だがオルバーンはその重たい瞼を開けて振り絞って彼の言葉を吐きだした。
「マルシエ、私は今まで何度も“死”を覚悟したことはある。オズマーンの戦いでは特にな。だけど今回ばかりは覚悟だけでは済まされない……」
今度はマルシエが重たい瞼を開ける。彼は驚いた。威厳のある顔をしたオルバーンが涙を流して顔から何まですべての体を震わしているのだ。
「将軍……私は……」
「いい、お前はリンカーン様を引き連れて北部のひと気のない地まで逃げるのだ。あの御方は何としても生き延びてもらえ。あの御方の血筋なくしてトリス人類は未来永劫救われぬ」
「何を言っておられる! あの御方が望むのは貴方ではないか! 私がそれを知らないとでも思っておられるのか!?」
「マルシエ、お前……」
マルシエはこの1年で薄々気づいていた。しかしハッキリとそれがわからないほど彼と彼女はその関係を世に伏せてバラグーンを強大な市民勢力にしたのだ。それはマルシエがリンカーン達二人を何より信頼し、尊んできたからこそ見えたことだったのだ。
「そうか。ふふっ、お前に知られたとあっちゃあ、尚のこと逃げられないな」
「誰にも言ったりしませんよ。言うワケがないでありませんか!」
「マルシエ、やはり私から願いがある」
「はい……」
「ありったけのマシンガンと戦車、そして大砲を用意しろ」
「将軍!」
「そしてお前はリンカーン様を連れてゆけ。聞けないなら、ここでお前を撃つ」
「………………」
オルバーンは拳銃を持ち、マルシエに向けていた。彼の涙は既に枯れていた。
「承知しました。ご武運を」
「すまん」
「いいえ」
マルシエはアルハ高原東域本陣を馬車に乗って出た。リンカーン邸にはアルマが既にいると思われるが、国外逃亡前に消しておかねばなるまい。様々な思惑が彼の脳内で絡み合うなか、彼は正直に安堵した。あそこにいてはどうも濃くどす黒い絶望しか味わえないからだ。彼は再び重たい瞼を閉じた――




