ー第6幕ー
時はワルキューレ・トリス暦803年、11月22日、バグラーンとデュオン公国の戦争が開戦された――
デュオン公国軍が駐在するアルハ高原東域の本陣にはキリアンとイザベルら率いる第3陣の2百万とドグマ元帥が率いる5百万の軍勢が戦闘に備えていた。合わせて7百万、それでもバグラーンからしてみれば水の泡のようなものである。そしてそれは多くの兵士が抱えている本音でもあった。
兵士の弱音を斬るべくして立ち上がったのはキリアンだった。彼女はドグマにお願いをして、本陣の兵士達にマイクを通して話しかけることにした。
『諸君らの戦参戦を心から讃えよう、アタシはデュオン家長女のキリアン・デュオンだ。この戦にあたって軍人となり、大将の任を受けた。諸君ら多くもアタシと同じくこの戦から軍人となって、兵士となったのだろう。何度も言うが、その決断をアタシは称えたいのだ。何故ならこの戦いは“必ず勝てる戦い”だからだ。バラグーンのリンカーンという女はこう言ったそうだな。『革命は信じれば起こる』とな。同じく女であるアタシが言わしていただこう。革命は信じているからこそ起こる。兵士の数が何だ! 兵器の数が何だ! アタシ達には“勝利の女神がついている”のだ! この言葉、最後まで忘れるのでないぞ! ドグマ元帥よ、勝ち鬨を頼む!!』
『お、うぉしっ!! 勝ち鬨用意!! エイエイオー!! エイエイオー!!』
総勢7百万の兵士の勝ち鬨がこだました。しかしこの時にキリアンのスピーチがもたらす意味をわかった者はいなかったに違いない。勝ち鬨後、ドグマとキリアンは最後になるかもしれない会話を交わした。
「見事だったぞ。姉者、これで俺の腹も決まった。デュオンと共に最後まで戦える」
「最後? 何言っているのさ? そんなでかい図体して情けないこと言うのじゃないよ。元帥のクセに情けがないときたらありゃしないね」
「姉者、姉者は本当に本気で……」
「当たり前だよ。今日その目にも信じ難いものが見られる。アタシの勘がそう言っているのさ。信じな。私が軍人するのもソレが見たい今日限りだからね」
颯爽と過ぎていくキリアンをただ呆然とドグマは眺めていた――




