ー第5部ー
暗い部屋の中で一人の魔女が水晶玉を持ち、マルシエ・セシルを待っていた。
「待たせて悪かったな。昨晩の様子を頼むぞ」
「かしこまりました」
魔女は水晶玉を凝視すると、呪文を唱え始めた。すると、水晶玉にデュオン家が御前会議を開いている様子が映しだされた。映像に映っているのはアルマ、ドグマ、キリアン、ハローズ参謀の4人だった。
「ふふふ、まさか敵に自分たちの語っていることが丸見えだとは思ってなかろう。実に滑稽な貴族よ、ふっふっふ、はっはっは!」
マルシエは笑いながらも御前会議の模様をしっかりと見届けた。練られている作戦はどれも実にありきたりなものでしかなかったが、彼らの話題のなかに度々登場する『アヴェーヌ』が何のことかさっぱりわからなかった。その話題に深く関わっていそうなキリアンも「一切何も教えられないね」としらを切るばかりだ。
「おい、このアヴェーヌって人間のことは透視できないのか?」
「本名全てがわからないと……それに話している内容から察するに人間でもないかと……」
「兵器か何かか? こんな奇抜な名前をつけるとは余程の物なのだろうが……」
マルシエは手を顎に当てて少し考えた。もしデュオンがバグラーンを討つ自信を持てるとしたら、強力な破壊兵器を精製するしかない。いずれにしても調べる価値があると思い、彼は西域を離れてでもその調査に乗り出した――
しかし何もわからなかった。デュオン公国本土とデュオン公国に所縁のある地、またカテリーナ寺院がある南部地域ら危険圏域には足を運ばなかったが、どんな手を使っても誰も「わからない」と答えるばかりだ。やがてオルバーンから軍の統制にもっと動くべきだと叱りを受け、彼のアヴェーヌ模索は終わってしまった。歴史が変わっていたとしたら、この時にこそそのチャンスがあったのかもしれない。
そして月日は早くも流れて開戦のその時を迎えた――




