ー第4幕ー
リンカーン邸での会談翌日、マルシエはバグラーン城に戻って、コリン少将の中将昇格の儀を執り行った。中将のバッジをつけると、コリンと言葉を交わした。
「ハックマンのことは残念だったな。カテリーナへ復讐を遂げたい気持ちがあるかもしれないが、今は堪えろ。この戦争に勝ってから、お前たちのしたいことは何でもさせてあげよう」
「いいえ! セシル大将の下で戦うのが我が使命です! したい戦いなどあるとすれば、ただそれだけでございます!!」
敬礼するコリンの瞳には何ひとつ淀みがなかった。
「律儀な奴だな、500万の部下たちを無駄死にさせるのでないぞ。ハックマンへの手向けだ。この度の戦争では私と共に動いて貰おう」
「さ、左様ですか! これ以上にない喜びを!!」
「しっかりと働けよ」
マルシエは握ったグーの拳でコリンの胸を小突くと、儀を執り行った小部屋をさっさと出た。コリンを自分の直属にしたのはハックマンへの手向けなどではない。ハックマン中将の黒い噂は度々耳にしてきたことであり、今回の殉職した件においてそれは確定したに近しかったのだ。
それから彼は西棟を移動した。バグラーン城は全周するのに半日かかるほどの巨大な城だ。その大きさをあまり好んでない彼でもあった。
「全くせわしい世の中だな」
マルシエは1人ぼやきながらも歩き続け、やがてバグラーン城奥の北棟にある小部屋をノックし、部屋の中に入った――




