ー第10幕ー
バーサル堂内の一室にて、寺院ナンバー2のマドラム・マースはバグラーン軍のハックマン中将とともに酒を交えて歓談をしていた。マドラムは両肩に2人の女をそれぞれ抱き寄せていた。
「も~マドラム様ったらスケベ~♡」
「でもそんな和尚様が素敵♡ちゅ♡」
「ぬはは~♪これは良い手土産持ってきたの。ハックマンよ」
「マース様にご愛顧いただけるなら何よりです。お前ら良かったな! 我が軍勢で重役を担うラベルス家、その宿敵を始末して頂けた。そのほんの御礼ですよ」
それから酒を一口口にしたハックマンは寺院で聴きなれない音を耳にした。
「ん? マース様、どうやら外で悲鳴が聴こえる気がするのですが……」
「ああ? んなもん、場外で起きているテロか何かだろ? 別に珍しくも何ともないよ。ねー♪ シュシュリンちゃん♪」
「うんうん♡」
「こんな真っ昼間から酒と女に溺れる僧侶がいたなんて、呆れた寺院ですわね」
「んん?」
振り向いたハックマンの眉間に躊躇なく1発の弾丸が撃ち込まれた。続け様に2人の娼婦それぞれも撃ち込まれる。皆即死であった。
「な!? ななな……何だ!? おまえ!?」
マドラムは死んだ娼婦を手放し、そのまま怖気づいてソファーから転げ落ちた。見上げるとそこにはボロ服を着た殺し屋が凛然と彼を見下ろして立っていた。
「私の信ずる神は人殺しに夢中になっていましてね、仕事をしてくれませんのよ。お縄頂戴致しますわ。マドラス・マース」
深々と被ったフードを外したその素顔はイザベル・ラベルスであった。
「この軍服の将軍は見覚えありませんわね。まぁ、開戦の手土産にバグラーンへこの寺院から贈らせていただきましょうかね?」
彼女の銃口はマドラスに向けられたままだ。
「おい、何とか言ったらどうです?」
「は、はい! そ、その、します! 何でもしますぅ!!」
「ふん、失神しましたわね。ハシムのことは後ほど聞きましょうか」
アヴェーヌのほうは60人殺害したところで坊主たちが観念したとのことだ。ハシムは3カ月に及ぶバグラーンへの豪遊に出向いたらしい。ハックマン中将の遺体をこの寺院から送る為、彼が捕虜となるのは間違いないだろう。バグラーン勢がこの寺院を総攻撃してくる可能性も否めないが、開戦通達が為された今この時、戦地より人里離れすぎている此処をわざわざ落とす必要もない。アヴェーヌの思惑どおり、イザベル達の活動拠点に使える手筈が整ったのだ。
イザベル達はアヴェーヌがいた洞とは別の洞を見つけ、30分以上にもわたる暗闇を歩き、1人の蒼く光り輝く女子を見つけた。彼女は洞の奥深くにうずくまっており、ひたすら何かに怯えて震えていた。
「ゆ、赦してください。ダリル様、な、何でもしますから。こ、殺さないで」
「おい、ダリルは暫く還ってこないぞ、其方何を怯えておるか?」
「アヴェーヌ様、よく見て下さいまし、このコ、体中に傷が……」
「何度も叩きのめされたのだろう。恐怖を植え付けることで、神を配下に置こうとしたのだろうな。ダリルめ、ただの不徳罪で済まされんぞ。おい、イザベル、何か道具を貸せ」
「道具?」
「妾が契約者となるのだ。ナイフか何かあるだろ?」
「女神が女神と契約できるのでありますの?」
「いや……こやつはもう……いいから、道具を貸せ」
「はいはい」
アヴェーヌは自身の指を切り、女神と思しき者にその血を吸わせた。
「苦しゅうない。顔をあげろ。其方の名前は何だ?」
「アソー・マロー」
「もう怯えるな。その身、妾とこのイザベルに任せてつかわせ」
「うっ……うっ……お願いします」
アソーはすすり泣きながら、アヴェーヌにもたれかかった。この時にこの女神が後の戦争と世界に大きく影響をもたらすことになるとは、この場に居合わせた2人も含めて誰も思わなかっただろう。そしてこの日、バグラーン国はデュオン公国の宣戦布告を承諾したのであった。開戦までの30日が始まった――
~第1章終わり~
∀・)第1章終わりまでのお付き合い、たいへんにありがとうございました!ちょっとでも楽しんで貰えたら嬉しいですが、まだです。まだまだこれからですよ。これからイザベルもアヴェーヌもマジで暴走していきますので、乞おうご期待して貰えたらと思います。宜しければ感想も是非お願いします。お待ちしてます☆




