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11.ユズルの返信

《シィナへ 3月28日》

 元気にしてる? シィナの声……確かに、トーマに届いたよ。

 朝日さんが急に現れたときは驚いたけど……いい方法だよね。僕には到底考えつかなかったな。

 トーマにも「僕がパラリュス語に直してあげるから書け」って言ったんだけど、僕に読まれるのは恥ずかしいみたいだね。

 「俺も元気だ」とだけ伝えておけ、だって。せっかく、朝日さんが直接やり取りできるように考えてくれたのにね。

 シィナみたいに声で届けられればいいんだけどね。……どうしたらいいかな?



《シャロットへ 3月28日》

 シャロット、手紙ありがとう。元気にしてるみたいでよかった。

 シャロットはなかなか弱音を吐かないし、僕にも何も言わないで独りで頑張ってしまうから、心配していたよ。

 でも、朝日さんのおかげでこうして直接聞けるようになったから、少し安心した。これからも、遠慮する必要はないからね。


 あ、そうそう、フェルポッドのこと、シャロットが思いついたんだって?

 すごいね。トーマもびっくりしていたよ。

 朝日さんから聞いて、早速やってみたんだ。どうやらうまくいきそうだ。

 これで……6月以降なら、そっちに行けるのかな。でも、トーマも採用試験が迫ってるから……どうかな……。


 僕はまだゲートを越えられるけど、トーマはもう難しいみたいなんだ。

 去年ウルスラから帰って来たとき、かなり苦しそうにしていたからね。朝日さんがやめた方がいいだろうって。

 だから、トーマは掘削(ホール)でしかそっちに行くことはできないね。

 ああ、そうだ。シィナからは「トーマ、元気ですか?」という声が届いたよ。文字と違って、一度開いたら二度と聞けないのが残念だけどね。でも、トーマはちゃんと部屋に飾ってるみたい。安心していいよ。


 

《シィナへ 4月30日》

 初めてゲートを開いたけど、無事に手紙が届いたみたいで、よかったよ。

 8月の水祭り、トーマと二人で行けそうだよ。トーマの試験も終わってるしね。

 でもシィナ、ちょっと言葉が短すぎるよ。トーマも困ってた。「水祭りに来ませんか?」だけじゃ足りないって。シャロットの手紙でようやく何のことか分かったよ。

 まだ慣れなくてちょっと恥ずかしいかもしれないけど、思い切っていろいろな話をしてあげて。大丈夫、僕は聞いてないから。


 ああ、そうだ。今回は、トーマも手紙を書いたよ。一応あれ以来、パラリュス語を勉強してるから、頑張ったみたい。

 でもどうしても僕に見られるのは嫌だって言うから、変なところもあるかもね。なんだったら、添削してあげて。



《シャロットへ 4月30日》

 水祭りの招待、ありがとう。トーマの試験も終わってるし、行けそうだよ。僕も実習で忙しいけど……どうにかなりそうだ。

 あ、トーマの試験について聞いてたっけ?

 シャロットは、小学校ってわかる? 6歳から12歳までの子供が通う施設で、みんなで勉強を習うところなんだ。

 トーマはね、小学校の先生になろうとしてるんだよ。昔からの夢だったんだって。


 トーマは子供にも人気があるし、面倒見がいいから、良い先生になれると思うよ。だからトーマもちょっと忙しい時期だから、大目に見てあげて。

 そう言えば、ウルスラにはそういうのはないんだっけ?

 前に四つの領土を案内してもらったけど、僕はウルスラのことは何も知らないかも。また、いろいろ教えてね。



《コレットへ 4月30日》

 コレット、手紙読んだよ。ありがとう。コレットも、もう11歳なんだね。

 でも、字はもう少し練習した方がいいかもね……。ちょっと綴りが違うところとかあったから。

 だから……シャロットに教えてもらって、また、手紙を書いてね。待ってるから。

 そうだ、水祭りにトーマと二人で行くよ。とてもきれいなんだってね。楽しみにしてるから。



《シャロットへ 6月28日》

 久し振りだね。ちょっと忙しくて、返事が遅れてしまってごめんね。

 あ、でもシャロットも水祭りの準備で忙しいんだっけ?

 トーマも僕も、相変わらずだよ。トーマは試験勉強で忙しいし、僕は実習……そうだね、医者になるための練習って言えばいいかな。それで忙しいんだ。

 でもミュービュリで生きて行くためには、必要なことだからね。僕たち二人とも、なりたい職業に就こうとして……そのために頑張ってる。


 そうだ、シャロットのウルスラの話、興味深かったよ。

 ウルスラでは、みんな自分たちの家の仕事を継ぐんだね。そう言えば、領土ごとに生活が違ってたものね。

 でも、物資の取引以外の交流がないのは淋しいね。


 例えばね、ブリーズの鉱山の家の子に生まれたけど、すごく動物が好きな子もいるかもしれないじゃない。

 そうすると、その子は鉱山の仕事をするよりも、ロワーゾで牧畜をやった方が向いてるかもしれないよね?

 ただ……これを自由にしてしまうと、やりたい仕事とやりたくない仕事が出て来て、ある産業が廃れたりする可能性もあるけどね。……なかなか難しいけど……。

 でも、世の中にはいろいろな仕事があって、どれも誰かの役に立つ必要な仕事だってことがわかると、自分の仕事にも誇りが持てるかもしれないね。

 ……ちょっと難しい話だったかな。

 でも、シャロットが大人になって時間に余裕ができたとき、自分の足でウルスラを回り、自分の目でいろいろなものを見たらいいと思うよ。



《コレットへ 6月28日》

 コレット、元気?

 手紙読んだよ。ちゃんと勉強したんだね。えらいね。……でも、勉強はあんまり好きじゃないって書いてたね。

 えっと、コレットの質問に答えなきゃね。

 どうしてウルスラで暮らさないかというとね、僕にはこっちでやりたいことがあるからだよ。医者っていう仕事でね……ウルスラで言うと、治療師になるのかな?

 そのためにはたくさんの勉強が必要でね。人の命を預かる仕事だからね、何一ついい加減にはできないんだ。

 だからそっちにはそう何回も行くことはできないけど、離れてても、コレットは大事な家族だから、忘れてないよ。大丈夫。


 コレットは女王になるって決まってる、って言ってたけど……どんな女王になりたいか、まで考えたことある?

 すぐに決める必要は全然ないよ。でも、シルヴァーナ女王を見たり、シャロットの話を聞いたり、他の神官の人の仕事をよく見て、ゆっくり考えるといいよ。

 そうすると、今やっている勉強も、なりたい自分になるための勉強だってわかると思うよ。そしたら、勉強も意味があるものだって分かって、やる気になるんじゃないかな?

 これからしばらく忙しくなるから手紙を書けないと思うけど、八月にはそっちに行くから待っててね。



《シャロットへ 8月30日》

 シャロット、この間はいろいろ案内してくれてありがとう。ウルスラの水祭り、とてもきれいだったね。

 トーマも、シィナと久し振りに話せてよかったみたいだよ。記憶は……戻ってないよ。シャロットの勘ぐり過ぎ。

 それにすぐに帰ったのもね、トーマはバイト……つまり仕事があったからなんだ。


 シャロット、そんなに急いで結論を出そうとしなくていいんだよ。それにシャロットも、そんなに急いで大人になろうとしなくていいと思う。

 確かに、前にいろいろ大人びた……何て言うか、ちょっと難しいことを書いちゃったけどね。それは、今じゃなくて、大人になってからだって書いたでしょ?

 それに、シャロットの言い分にはシィナの気持ちが含まれてないよ。シィナが今どう考えてトーマと接しているか、本当にわかってる?

 今シャロットがやるべきことは……シィナを見守って、シィナが本当に辛そうだったり、不安そうだったりしたときに、話を聞いてあげることだと思うよ。



《シィナへ 8月30日》

 この間は招待してくれてありがとう。ウルスラはとても綺麗な国だね。

 ねぇ、シィナ。シャロットとは話をしてる?

 責任感が強すぎて……どうも頑張り過ぎている気がするんだ。

 あと……シャロットは勘がいいから、シィナが悩んでいるのもお見通しみたいだよ。それで余計に自分が何とかしなきゃ、って思ってるみたいだ。

 シィナ、もし本当に辛くて、悩んでるなら――トーマの記憶、戻した方がいいんじゃないか?

 トーマが何を想っているか、ちゃんと知った方がいいんじゃないか?



《シャロットへ 9月15日》

 シャロット、手紙見たよ。でも……もう少し、待ってね。

 それで、こっちではちょっと大変なことがあってね。

 シィナにはもう直接連絡したけど、テスラのヤトさんって人が次元の穴からミュービュリに来てしまったらしいんだ。

 朝日さんや暁くんの、大事な人らしいんだよ。

 明後日……17日に、僕とトーマは彼に会う予定なんだ。そのあと、トーマがウルスラに送ると思うから、頼むね。それで、ユウさんがテスラからウルスラに迎えに行くって聞いてる。

 ……あ、そうだ。暁くんも一緒だよ。それじゃ……よろしくね。




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其々の物語の主人公たちは今 異国六景
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其々の状況も想いも変化していく まくあいのこと。
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