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無能、ようやく己の立場に思い当たる。

異世界に来て一週間経った。

最初は分からなかった事も少しずつわかるようになり、出来るようになった。

まず、太陽が昇る前に起きれるようになった。

起きないとルキアが起こしにやってくる。

ルキアは一体いつ寝てるのかと思ったら、私を起こしてからほんの少しだけ寝ているようだった。

起きてる時間はどうも働いているらしく休んでいる所を見ない。

こういうところ、上司二人にそっくりだ。

朝起きた私は厨房に向かう。

小甕から大甕に水を移す作業を行うが、遅いといつもコウさんに怒鳴られる。

遅いなら力仕事は女に任せず男にさせればいいと思うのだが、なぜかそうはしない。

終わったら野菜を洗ったり皿を洗ったり雑務をこなす。

ここでのいいところは、厨房には物が溢れていてその一つ一つ皆が名前を教えてくれることだ。

最初はおっかなびっくりだったのに、今じゃ平気で小突いてくるようになった。

言葉が通じなくても仲良くなれるようで嬉しい限り。

と、いうか誰かと仲良くなれたのは初めてだ。

友達じゃないけど、集団に受け入れて貰えて凄く嬉しいので、もっと役に立てるよう頑張りたい。

でも、食事は相変わらず鳥の餌で床食べだ。

いつになったら机を使えるようになるのかな?

新人だから仕方ない、後から誰かが来たらきっと机でパンが食べれる!!

なお、食事はこれ一食で終わり。

明日まで何も食べられない。

日本じゃダイエットをしようとしても三日坊主で終わったが、ここでは健康不安が出てくる勢いで痩せていく。

まあ、食べてるし、死にはしないか。

ご飯が終われば倉庫掃除。

あらゆる仕事の中でこれが一番嫌だった。

だったというのは過去形で、今は二番目に嫌な仕事へとランクダウンしている。

単に一週間やって慣れただけなのだが、それでも今では素足で虫を踏み潰しても、足をネズミに齧られても平気になった。

匂いは倉庫に入る瞬間さえ我慢すればあとは鼻がバカになるので問題ない。

ここまで達観すると、一人作業は楽でいい。

ここには誰も人がこないから。

床掃除を終えたら、棚の物を整理をする。

正直動物の皮とか骨とかなんてゴミだろうと思っているが、マリアノさんの雰囲気から察するにどうも違うらしい。

まあ、ならなんでこんな乱雑に置かれているのかと思う。

なので、まずは腐っている皮を捨てたいと申し出たのだが、凄い勢いで怒られてしまった。

腐った物くらい捨てさせろと思ったが所詮身振り手振り拙い単語の組み合わせでの申し出だ、正しく伝わらなかったのかもしれない。

しかし、許可が出なかったので別の事をする。

腐っていない骨、牙、爪の三種を分別したのだ。

骨は骨の箱に、牙は牙の箱に、爪は爪の箱に入れた。

それだけだが、でかい箱に全部適当に入れてあった時より綺麗に見えた。

マリアノさんも文句は言わなかった。

褒めてもくれなかったが。

今は骨の種類の分別をしている。

頭蓋骨、胸骨、足の骨、腕の骨…と、案外分かるものであった。

それらを分別していくと、どうも複数の動物が一緒くたになっていることに気づく。

こうなると、そこも分別したくなってくる。

最近は倉庫では骨いじりばかりしている。

こうして、倉庫掃除が終わると庭仕事が待っている。

庭仕事は別に嫌いじゃないはずだった。

言われた事はこなしているつもりだ。

しかし、オズマさんは言葉が少なく一番意思疎通がうまくいかない。

そのせいで毎回怒られて最後は井戸に連れていかれて水をぶっかけられる。

…まあ、お風呂がわりと思えばなんとか耐えられるが、全裸に剝かれて水をぶっかけられるって拷問の一種だよね?

オズマさんは怖い人と認識してしまい、庭仕事中はビクビクしっぱなしで、今じゃ倉庫整理を押しのけて嫌な仕事ランキング堂々の一位となっている。

こうして日が沈めば私の仕事は終わり地下室へと帰って眠る。


そんな日々が続いていた。

そんなある日、夜中寝ていたらルキアが私を叩き起こした。

「?」

「××××!」

何かを言ったかと思うと地下室から連れていかれて馬車に乗せられる。

いきなりとはいえ、お出かけにテンションがあがる。

そんな私を不憫そうに見るルキア。

ルキアは私より年下なのに、妙に大人びている不思議な青年だ。

そして、何故か皆彼を恐れる。

最初は私が怖いのかと思った。

それは確かに当たっていた。

しかし、一週間一緒に過ごすうちに彼らは私に慣れて怖がらなくなった。

だが、ルキアは違う。

皆が、彼を見た瞬間恐れおののき震えだす。

何故なのかわからない。

いや、考えたら私は彼に刺されたのだ。

ひょっとすると人を平気で刺すから皆が怖がるのかもしれない。

…よく、おまわりさんに捕まらないな…。

ぼんやりと思っていると、ルキアと出会った森の中に連れていかれた。

途中で馬車は止まり降りろと指図される。

素直に従うと、そこには既に何台かの馬車があり数人の男達がいた。

と、いうか全員見覚えがある。

熊男に戦隊ヒーローと同じカラフルな髪色の男達。

いつかと同じように皆ルキアと同じ格好をしていた。

ルキアが一番似合ってるけどね。

私が馬車から降りると彼らは顔を顰めた。

なんだ、呼ばれたから来たのに。

私は彼らに取り囲まれながらいつかのように歩く。

休憩なしでひたすら進んだ先に大きな木があった。

ルキアがその木の前に立てと指図するので、言われた通りに立った。

そしたら熊男が何やらごにょごにょいいながら荒縄で私を木に括り付ける。

「?」

熊男は視線を外しそそくさと私から離れる。

一体なんだ?

不穏な空気を感じとり不安になる。

ルキアは熊男達に指示を飛ばしたのち、全員撤収した。

え?

私、置いていかれた?

私も行きたいのだが、それを許されないほど強く括られており、身動きとれない。

それでも、頑張って縄から抜け出そうと悪戦苦闘する。

なんで?どうして?

涙が浮かんできた。

手首が痛い。

擦れて血が滲む。

屋敷の人達に受け入れて貰えたと思ったのは違ったのかな?

言葉が通じないから、私は勘違いしていたのかな?

私は捨てられた?

ルキアは一体何をしたいのか?

初めて会った時、まずは私の怪我を治してくれた。

だけど、すぐに刺された。

その後、連行されて私は働いている。

このまま、ずっとここで働くのかなぁと思っていたら森に捨てられた。

ぽたりと涙がこぼれた。

…仕方ない…。

厨房でも倉庫でも庭でも皆が満足出来る仕事ぶりではなかった。

気まぐれに拾われたのだ、捨てるのも気まぐれなのだろう。

そんなものだ、無能な私にお似合いの終わり方じゃないか。

地震があったあの日に死んでてもおかしくなかったこの命が今日まで伸びたのだ。

有り難がりこそあれ、恨むのは筋違いだ。

だけど、来世なるものがあるならば、今よりほんの少しだけ頭が良い人に生まれ変わりたいなぁ。

涙をポロポロと零し、鼻水をすすっていると、ガサガサと草むらをかき分ける音がした。

はっとしてそちらに顔を向ける。

期待半分警戒半分。

もしかしたらルキア達は戻ってきてくれたのかもしれない。

馬鹿だな冗談だよと言うのかもしれない。

だけど、その可能性が低いことは分かってる。

初めてこの森で私は獣に襲われた。

それが近づいているのではと警戒したのだ。

縛られた私には生きたまま獣の餌になるしかない。

それでも本能が警戒しろと言うのだ。

ガサガサと音は近づく。

そして、音の主が姿を現した。

結論から言えば私の想像は外れていた。

勿論、悪い方に。

「…嘘…でしょ…」

目の前に現れたのは獣などではなかった。

私の乏しい語彙で表すならばそれは魔物。

初めて出会ったあの犬が子犬に見えるくらい大きな青毛の狼だった。

サイズだけでいえば牛くらいある。

そして眉間には黒いツノ。

爛々と輝く目は明らかに私を餌としてロックオンしていた。

鋭い爪が生えた前足でザッザッと地面を蹴り土埃をたてる。

まるで闘牛のようだ。

だが、私は闘牛士ではない。

あのツノで刺されたらひとたまりもないだろう。

狼の口から涎がぼたぼたと落ちる。

落ちた涎が当たった草は煙をたてて消滅した。

…まさか、あの涎は酸か何かで触ったら溶けるの!?

ツノで刺されて、骨を顎で噛み砕かれて、肉は涎で溶けていく。

そんな遠くない未来が鮮明に映し出されて私は絶望した。

あれに食われるならば、まだ狼の方が優しく殺してくれそうだ。

とことん私はついていない。

私の体から力が抜けた。

足がガタガタ震える。

狼がツノをこちらに向けた。

あ、と思う間も無く走ってきた。

目を閉じる間も無く私の命は散った…


とは、ならなかった。

ツノが私に届くより早く横から出てきた人が狼の胴体に剣を突き立てたのだ。

予想外の攻撃を受けた狼がその人を見た。

その人は狼の怒り狂った目を物ともせず、更に剣を振るって首を跳ね飛ばした。

その全てを私は特等席で見た。

「あ、あ…」

私は震える。

なんなんだ、一体。

何がしたいんだ、ルキア!!

怒っていいのか、泣いていいのか、笑っていいのかわからない状況でルキアを見ていたらルキアが私に剣を振るった。

一瞬辻斬りかと思ったが違う。

私を縛っていた荒縄を切りほどき自由にしてくれたのだ!

「×××?」

感覚的に大丈夫かと聞いたのだろう。

んなの

「大丈夫なわけないでしょうがぁぁぁ!」

言葉が終わりに近づくにつれて力が抜けていった。

私はその場にヘタリ込む。

丁度その時、熊男と戦隊髪色男達がやってきた。

「××××」

「××××××」

「××××」

「×××××××××××××」

何事か私を見ながら彼らは言う。

何かルキアがいい含めるように…。

ぼんやりと見ているとルキアは私を無理矢理立たせる。

でも無理でまたヘタリ込んでしまう。

二、三度繰り返して無理だと悟ると、ルキアは私を肩に担いだ。

「うわ!」

「××××」

煩いとか大人しくしてろとかそんなニュアンスの事を言ったのだろう。

私は大人しくする。

今回は偶々思い直して拾ってくれたが次があるとは思えない。

大人しく、彼らの機嫌を損ねないように生きていこう。

ああ、これではまるで。



奴隷じゃないか。




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