無能は異世界でも無能
色々考えなくてはいけない事はわかるが一体何を考えればいいのかが分からず結局部屋でぼーっとしていたら、給仕係っぽい人がお盆を持ってやってきた。
ドアのところに置いて逃げるように去ってしまった。
食べ物っぽい…?
食べていいのかな?
わからないが、くぅとお腹が鳴ってしまい、食べれるなら食べようと決断する。
そっと近づき何がお盆に乗っているのかと思えばお皿にはよくわからない穀物をふやかしたものが入っておりコップには水が入っていた。
…これがお米ならおかゆかな?
でも、お米じゃないし…。
みた感じ色々な穀物を混ぜて量を稼いだって風だ。
あー…昔飼ってた鳥の餌っぽい….。
そういう感想が漏れる。
すっごい不味そう…。
もう少しお腹が空いたら食べようかな…。
お腹と背中がくっつきそうではあったが、それを鑑みても食欲が失せる代物だった。
コップの水だけ飲む。
そして、食べ物から離れて部屋の隅に座った。
しばらくしたら先程のメイド風の女性がお盆を下げにきた。
食べ物が減ってないことに気づき、こちらをみたが私と目があった途端びくっとしてお盆をひったくるようにして逃げていってしまった。
なんだろう?私が怖いのかな?
それから誰もやってこない。
お腹の虫がご飯を食わせろと訴える。
窓がないから時間がわからない。
ずっと部屋の隅でぼーっとしていた。
何も考えず、ただ時間が過ぎるのを待った。
どうせ、何かを考えてもわからないのだ。
ならば、何も考えない。
ガチャリ
ドアが開いて私ははっとした。
ドアが開いてやってきたのはルキア!
彼はお盆を片手にやってきたのだ。
ご飯!
彼は私の前にお盆を置いた。
だけど、食べ物は最初のと同じ鳥の餌。
「….」
もう少し我慢しよう。
私は水だけ飲んで終わりにした。
「ちっ!」
ルキアが舌打ちした。
そして、私の顎を掴んで無理矢理口を開けてスプーンで鳥の餌を流し込む。
見た目通り凄まじくまずかった。
味がない。
素材の味を生かすにもほどがある。
一口目は不意打ちで飲み込んだ。
二口目は無理矢理喉の奥に押し込まれて飲み込んだ。
だけど、三口目。
二口目と同じようにされて全部吐いた。
「うわっ!」
ルキアが汚いと言わんばかりに飛ばずさる。
あんたがやったんだ。あんたが。
涙目で睨むが、目が合ったので逸らしておく。
ルキアは蔑んだ目で私を見た後、部屋から出ていってしまった。
…この汚れどうしよう。
貫頭衣も床も嘔吐物で汚れてしまった。
何か掃除する道具はないかと見回すが、何もない。
…困った。
唯一ある物は私の貫頭衣だけ。
…どうせこの貫頭衣も汚れたし、雑巾がわりにしてもいいか…。
私は貫頭衣を脱いで、床を拭う。
素っ裸の三十路過ぎの女が雑巾がけしてる図はシュールとしかいいようがない。
綺麗になったところでドアが開いた。
ルキアが入ってきて固まる。
私も固まった。
「…」
「…」
頼む、何か言ってくれ。
彼は無言で何かを投げつけどこかへ行ってしまった。
投げつけられたのは…服。
貫頭衣じゃない、シャツとズボンだ!
下着はないけど、貫頭衣よりずっとまし!
私は喜び勇んで服を着た。
飾り気のない服だし、生地はごわごわしていたが全く問題なかった。
きっと、彼はもうこないだろう。
私はもう、寝てしまうことにした。
頬を叩かれ目が覚めた。
目を開けたらルキアがいて驚く。
「××××!××!」
何か怒鳴って私を部屋から連れ出した。
階段を登った先は全く見覚えのないところだった。
…ここはあのお城じゃないのかな?
お城というよりお屋敷といった感じだった。
それもかなりの豪邸。
クラシカルな趣きのある邸宅だった。
彼は私を連れて外に出た。
外から見たお屋敷は想像以上に立派であんぐりと開いた口が塞がらない状態になってしまった。
彼についていくと裏口に着いた。
裏口ではたくさんの木箱が積まれていた。
彼はそのうちの一つを持つ。
「×××!」
持てって言ってるのかな?
私も彼を真似て持ってみる。
重い!!
私一人では持てない…。
それでも頑張って持つが、三歩歩いて転んでしまい、箱の中身が散乱する。
中身はガラス瓶に入った飲み物だったようで全てがダメになってしまった。
「×××××!」
「ごめんなさい…」
叱られたのはわかったので謝る。
謝ったのがわかったのか、彼は箱を運ばせるのを諦めて裏口から屋敷へと入る。
裏口から入ってすぐのところが台所…いや、この規模なら厨房というべきか、だった。
数人の料理人が必死に料理を作っている。
「××!」
名前か?ルキアは誰かを呼んだ。
それに応えてやってきたのはでっぷりとしたおじさん。
「××あかり××」
紹介されたっぽい。
「あかり、××…×・×」
ゆっくり言ってくれたところが名前か。
私はそれを繰り返す。
「こう?」
ルキアは頷いたので一発で当てたようだ。
私をコウに押し付けてルキアはどこかへ行ってしまった。
大きな体で心なしか青い顔で私を見下ろすコウ。
いや、かなり年上っぽいのでコウさんと呼ぶべきか。
「よ、よろしくお願いします。」
通じないのはわかっているがとりあえず挨拶はした。
コウさんは私を井戸近くに案内させた。
そして小甕を渡す。
そして身振り手振りでこの甕であの大甕を満たせと伝えてくる。
「××?」
「はい!」
私の返事に気を良くしたコウさんは厨房へと消えて行った。
よし、頑張るぞ。
私は井戸を見て…井戸の使い方がわからないことに気づく。
ど、どうやるんだろう…。
あんなに大見得切って返事しちゃったし…聞けない…いや、うまく伝えられる自信がない…
オロオロしているうちに時間が経ち、コウさんが戻ってくる。
全く進んでいない作業にコウさんは激怒した。
「××××××××××××!!」
「ごめんなさい…」
何を言っているのかさっぱりわからないが酷く怒っているのはわかったので謝っておく。
彼はため息をついて私を厨房に連れていく。
周りがざわめいた。
そして、山と積まれた野菜を洗うようにと身振り手振りで伝えてくる。
水は桶にたっぷりと入っていたので洗えそうだ。
まず最初に丸い野菜を取り出して洗おうとしたら、つるっと滑って落として割れてしまう。
それを見たコウさんはまた激怒する!
周りがまたもざわめきコウさんを諌めようとする。
「ごめんなさい….」
コウさんは周りにたしなめられて赤い根っこのような野菜を私に手渡してこれを洗うようにと伝えてくる。
これは滑らないと思い水桶につけて洗う。
これなら大丈夫そうだなといった感じの表情をコウさんがした直後ポキッと赤い根っこは折れてしまう。
今度は周りもフォローが出来ずにあんぐりと私の失敗を見ていた。
コウさんは怒鳴り散らす。
「×××××××××!!」
「ごめんなさい…」
ならばと食器を洗わせれば割りまくり、野菜を切らされば自分の指を切り、調理をさせれば塩と砂糖を間違える。
結局首根っこ捕まえられて自室と思しき部屋にいたルキアに返却された。
ルキアはため息をついてメイド風の女性を部屋に呼びつけた。
やってきた女性は頭のてっぺんにお団子を作り眼鏡をかけたメイド長といった雰囲気の人だった。
「あかり×・×・×・×」
「マリアノ?」
当たっていたようだ。
私はマリアノに押し付けられる。
マリアノさんは私の顔を見ない。
見たくもないといった感じだ。
なんか雰囲気が怖いから怒らせたくないなぁ。
私はマリアノについて屋敷の掃除を始める。
しかし、窓を割るは、捨ててはいけない書類は焚き付けるはとこれまた散々であった。
結局たっぷりと怒られてまたもルキアに返却される。
「×××…」
言葉はわからないが、きっと無能すぎて呆れているのだろう…
次は庭に出た。
庭師にくっついて働けとのこと。
庭師の名前はオズマさん。
中々お年をめした方だった。
この道うん十年のベテラン的雰囲気を豊富とさせている。
彼はなんとなく無理矢理笑っているような感じだ。
きっと気を使っているのだろう。
本当は笑うの苦手なザ職人って感じだから怒ると怖いかも…。
しかし、そんな気遣いをぶっ飛ばすほどの失敗を立て続けに起こす。
新芽は摘むし、雑草は抜けきらないし、水やりは多すぎて庭をぐちゃぐちゃにしてしまった。
虫が苦手で出てくるたびに大げさに騒いだのもまずかったのだろう、クビまでの時間最短記録を更新した。
またもやルキアの元へとやってきた私をため息混じりに見つめてくる。
「×××…×××?」
何が出来るんだお前は的な事を言っているのだろう。
だが、生憎私は人並みに出来る事など何もない。
学生の頃から頭が悪く人一倍勉強しても遊んでばかりの友達の成績には敵わなかった。
社会人になっても同期は順調に出世するなか私は一人いつまでも雑用係をやっているが、それすらまともに出来ず毎日上司二人に叱責される日々。
異世界に来てまで無能ぶりを晒すことになるとは私も驚いたが、考えてみれば世界が変わっても自分が変わらなければ無能のままに決まっている。
「×××?」
にやりとルキアは何故か笑った。
「?」
そして、私を引っ張りベッドに押し倒した。
そして体を弄る。
「るきあ?」
…何をしているのだろうか?
くすぐったいのだけど?
「………!!?」
私の声にルキアは顔を赤らめ私から離れる。
そして、私を引っ張って地下の部屋に押し込めた。
「××××!」
どうやら今日はもう終わりのようだ。
そういえば今日一日何も食べ物が出なかった。
さすがに限界かもしれない…。
私は次は諦めて鳥の餌を食べる事を誓いながら眠りについたのだった。
翌朝。
ルキアに叩き起こされ向かった先は厨房。
おや?クビになったんじゃなかったのか。
厨房からコウさんが出て来て私を見ると面倒くさそうな顔をした。
あー、嫌々面倒を見る感じなんですね、ごめんなさい。
ルキアは私をコウさんに押し付けるとどこかへ行ってしまった。
コウさんは昨日と同じように井戸に連れていき水を汲むように丁寧に身振り手振りで示してくれる。
でも、やはりその中に井戸の使い方は含まれていない…。
言葉は通じないけど、頑張って聞いてみよう。
「あの!井戸の使い方がわからないのですが?」
「?」
「えっと、井戸の使い方!!」
井戸を指指して必死で訴える。
中々通じなかったが、通じた時は凄く驚かれた。
『まさか井戸の使い方を知らない奴がいるなんて!』といった感じだ。
まあ、水道の使い方を知らない大人がいたら驚くだろうから彼の態度は当たり前か。
かなり時間を取られたが私は井戸の使い方を教えてもらい小甕から大甕に水を移す作業に入れた。
だけど、小甕とはいえ重い!!
フラフラしながらの作業で、コウさんが期待する速度には満たなかったようで失望のため息を貰ってしまった。
水を大甕に移し終わった後、コウさんが食事を持ってくる。
小鳥の餌と水だった。
昨日は水すら飲めなかったからありがたい。
吐いてしまったのはトラウマだが、食べなきゃ死ぬ。
ふと、コウさんの食事を見てみたら、黒いパンと野菜のスープと果物がお盆に乗っていた。
そっちの方がいいなぁーと、じっと見てたらしっしとされた。
私の席はどこかわからなかったので適当に座ったらコウさんが怒鳴り、床を指差した。
え?床で食べるの?
まあ、地下の部屋で食べるなら床だから別にいいけど、まるで犬か猫のよう。
人間の扱いをされてないような…?
私は床に座って手と手を合わせる。
「頂きます」
しーん
場が静まりかえった。
え?何?
私は心配になりコウさんを見た。
彼の顔色は頗る悪かった。
どうしたのだろうか…?
コウさんの近くにいた細くて小柄な少年が吐いた。
え?
それを皮切りに何人かが嘔吐する。
静まりかえった場は今度は真逆に騒がしくなった。
…具合が悪くなってしまった彼らが心配で、彼らの為に水を汲みコップに水を注ぐ。
彼らはぎょっとした顔で私を見るので、視線は外しておいた。
こういう時に微笑みかけることが出来れば今頃友達の一人や二人いたのかもしれないが、人と目が合うのが怖いので仕方ない。
元々人の視線が苦手ではあったが特にあの上司二人と仕事をするようになってからそれが顕著になった。
あの二人はとにかく人気のある人だった。
その二人に悪い意味で目をつけられていた私は上司二人に心酔する人達にとってまさしく神の敵のような存在だったのだろう。
上司のいない時はかなり手酷くやられていた。
…思い出しただけで腹がたってきたが、そのせいで人の視線は怖いものとすっかり学習してしまった私は人と目を合わせられなくなってしまったのだ。
私への視線など皆侮蔑、嫌悪でしかないのだ、そうなるのも当たり前である。
私はうつむきながら水を注いでまわる。
回りきった頃には彼らの体調は戻ったようだった。
私は床に座り冷めた鳥の餌を食べる。
空腹は最高のスパイスというがそのスパイスをもってしても美味いとは思えない食べ物だった。
雑穀だからなんとなく栄養はありそうだと思う。
本当に栄養があるのかは知らないけれど。
なんとか吐かずに食べきってご馳走様と手を合わせる。
またも騒然となったが、頂きますよりパニック度数は低かった。
一体、なんなのかな?
ご飯を食べ終わった後はマリアノさんについて屋敷の裏にある倉庫の整理をするように命じられる。
かなり大きな倉庫で、マリアノさんは掃除道具を私に押し付けると逃げるようにそこから出て行った。
私が倉庫のドアをあけるとむあっとした臭い匂いが鼻につく。
生ゴミの匂いだった。
その匂いにつられたのかネズミやゴキブリっぽい動物や虫がいた。
私はドアをばたんと閉める。
え?あそこの掃除?
いやいや、厳しいって。まず、自分一人の世界にしたい。
虫とかネズミとかそういう先客にはお帰り願いたい。
あれらがいる限り私は一歩だって中に入らない!
私がそうドアの前で誓っているもマリアノさんがやってきて、私を容赦なく倉庫の中に押し込み外側からつっかえ棒で閉じ込めた!!!
吐き気のする匂い、ネズミ、虫で私は恐怖で慄く。
「×××××!」
彼女の声がした。
掃除をしなさいとか言っているのだろう。
きっとやらなきゃ出して貰えない。
私は半泣きで掃除を始める。
この匂いの元は何かと思ったら保管されている動物の皮の匂いだった。
他にも動物の耳とか、爪とか牙とか羽とか血生臭いものが乱雑におかれている。
これらは一体なんなのだろう。
何に使うのだろう。
動物の皮とかなんか剥ぎ取ってそのまま押し込んでいるから凄く臭うんですけど、それでいいんですかね?
適当な一枚を広げてみたら虫が湧いていた。
明らかに蛆虫の類いである。
ひぃぃ!
私は慌てて元の場所に戻す。
体が痒くなった気がした。
とりあえず床の埃や血痕を掃除する。
それだけでも虫とネズミとの戦いで時間がかかった。
汗まみれで終わった頃につっかえ棒が外されてマリアノさんが帰ってきた。
しかし、彼女の希望程綺麗にはなっていないようで、無表情で明日も同じことをするように身振り手振りで伝えられ私は絶望する。
床は頑張った。
なのにもっとって事は保管品もなんとかしろって事だよね?
マリアノさんは私を連れて庭に行く。
庭師のオズマさんはにこやかではあるが、あまり歓迎はしてくれなかった。
庭の隅にあるあまり人目のつかない場所の雑草を取るように命じてどこかに行ってしまった。
倉庫掃除よりも遥かにマシなので一生懸命頑張る。
夕日が色鮮やかに屋敷を照らす頃、オズマさんは戻ってきた。
オズマさんが期待した程作業は進んでいないみたいでため息をつかれた。
そして、井戸に連れていかれる。
この井戸は庭専用の井戸だ。
何か身振り手振りで彼は伝えようとしてくるが、何を言いたいのかわからない。
「?」
ついに焦れたオズマさんは私を捕まえて服を無理矢理剥ぎ取る。
全裸にされて怯える私にオズマさんは井戸の水をばさりとかける。
「!!???」
何度も何度もかけられた。
水攻め!?
私の今日の庭での仕事はそんなにダメだったのかな!?
何か身振り手振りで伝えてくるが、羞恥と恐怖と絶望で私は泣いてしまう。
「ごめんなさい…。明日はもっと頑張るから、やめてください…」
しくしくと泣く私に彼は困惑の眼差しを送る。
そして、どこかへと行ってしまった。
びしょ濡れだが、オズマさんがいなくなりほっとして服を着た。
服を着終わったらオズマさんはタオルを持って帰ってきた。
既に服を着ていた私をみて眉を顰める。
服を着ないで待ってなくてはいけなかったのかな?
わからない…。もう、こんなことされないように明日は頑張ろう。
私はオズマさんに地下室に帰れと身振り手振りで伝えられてノロノロと帰り、床で倒れてそのまま眠ってしまったのだった。