無能、ようやく自分が生きていることに気づく
え?
言葉が全くわからない。
英語?フランス語?中国語?
どれにも当てはまらない言語?
まあ、いずれにせよ、日本語以外わからない私にはお手上げだ。
そうだよね、ここは死後の世界。
言語が都合よく日本語なはずないか…。
そう思った途端、くらっと目眩がした。
何故かと思えば地面から漂う血の匂い。
…これ、私の血かぁ。
ってことは貧血?
死後の世界にも貧血があるのか…。
ズキズキズキズキ
犬に食べられた箇所が酷く痛む。
…ここ本当に死後の世界なのかな?
なんか、痛みといい、貧血といいリアルすぎる気もする…。
「××××××!××××!!」
目の前の金髪碧眼のお兄さんが私の目の前にやってきた。
そして膝をついて私の傷口を握りつぶした!!
「ーーーー!!!」
悲鳴すらあげることが出来ない痛みが襲ってくる。
何しやがるんだ、こいつ!!
涙目で睨んでみたら、目が合った。
目が合うと途端に弱気になり、視線を逸らしてしまうチキンな私。
「××××××××××××××」
何か、男が言ったと思ったら傷口が一気に発熱して先程とは比べものにならないような痛みが私を襲う!!!
「ーーーーーー!かはっ!」
なんとか呼吸を試みようと口をあけてみたが嗚咽しかでない。
頬を涙がつたった。
しかし、段々と痛みが引いていく。
と、いうか無くなった。
「はあはあはあ…」
荒いながらも呼吸が可能になる。
肩を見て見れば、傷が塞がっていた。
え?治った?
訳がわからず男を見て見れば男は驚愕を表す表情をしていた。
…?
次の瞬間、男は先程まで傷があった場所に剣を突き立てた!!
「ーーーー!!!」
傷を治したと思ったらまた刺すって何事!?
「×××××!?×××××!!」
凄い怒鳴り散らしているけど、何を言っているのかわからない。
ただ、犬に噛まれた時より人間に刺された事が思いの外ショックであり恐怖でもあった。
男は懐から銀色の何かを取り出した。
彼の一挙一動が恐怖の対象でありビクビクしてしまう。
それは小さなものだった。
何だろうと見ていると彼はそれを口に咥えた。
さながら笛のように。
と、思った瞬間
『ピーーーーー!!!』
けたたましい音が響き渡る。
笛のようなではなくてそれは笛だったのだ。
それも可愛い音がなるような玩具や楽器じゃない。
発せられたのは警告の音。
警笛!?
その単語に思い当たりハッとする。
私は警戒の対象なのか?
なんで??
鈍い頭をいくら回しても答えは出ない。
そうこうしているうちに仲間と思しき人達が集まってくる。
皆、上司達並みのイケメンでやたらカラフルな髪色揃いではあったが、表情はとても硬かった。
「××××!×××!!」
私を刺した男が私を指差して何か言う。
「××××」
それに対して別の男が半ば困惑した顔で何か言う。
それに焦れたのか、私を刺した男は私の口をこじ開けた。
「ーーーー!!!」
途端、全員が抜刀する!
なんで!?
え?私、ここで斬り殺されるの?
あれ?ここって死後の世界なんだっけ?
じゃあ死なない?
でも抜刀してきてるし、殺されそう。
なら私はここでもう一度死ぬのかな?
え?死後の世界なのにまた死ぬの?
わけわからない。
怖いよ…!!
何がなんだかわからないうちにもう一度死ぬのか。
せめて説明が欲しかった…。
いや、説明されてもバカだから理解出来ないか。
肩は痛く、人は多く、とても逃げ切れるとも思えない。
せめて痛くありませんように…!
私はぎゅっと目を閉じて最期の時を待った。
最初の痛みは腕にきた。
斬られる痛みじゃない、捻り上げられる痛み。
思わず目を開けて後ろを確認すれば、私を刺した男が腕を捻って後ろで組まれていた。
そして、手枷を嵌められる。
え、え?
「××××××!」
「??」
混乱していると男は私に何やら言ってくる。
しかし、何を言っているのかさっぱりわからない。
焦れた男は私を後ろから蹴っ飛ばして無理矢理立たせて歩かせる。
周囲の男達も剣を突きつけていつでも殺せるように準備していた。
犯罪者の連行のようだなと思う。
なんで私がこんな目にあうのだろう。
会社があった町にこんな大きな森はなかった。
大都会の一等地にある最先端ビルで働いていたのだから。
地震があって死んだと思っていた。
だからここは死後の世界だと思った。
でも、痛いし、お腹もすくし喉も乾く。
怖いし、寒い。
私は死んでいると考えるより私は生きていると考えた方が納得出来る。
だって実感出来ることがたくさんあるのだから。
私は生きて一体どこに来てしまったのか。
夜だというのに足元は明るい。
ふと、空を見上げた。
私の天文学知識なんて小学生以下だ。
北斗七星とか夏の大三角形とかわからないし見つけられない。
でも、そんな私でもわかる。
普通地球に月は二つない。
私は地震で死にそうになった時に、月が二つある世界…アニメ風に言うならば『異世界』にきてしまったのだ……!