無能、有能上司と再会を果たす
目が覚めたら馬車だった。
馬車は相変わらず車並みの速度を保ち街中を疾走していた。
すごくよく眠ったような気がした。
なんか、寝すぎたくらい。
奴隷生活が馴染んでしまい、浅い眠りに慣れきった体は久しぶりに軽くなっていた。
「…?」
馬車の外を窓から覗く。
空は暗く眠る前とさして変わらない。
そして眠る前と変わらず街の中。
….んー?
よく寝たって思ったけど、実はあまり寝てないとか?
「おきたか」
隣から声がしてふりむけばだんしゃくさんがいた。
「どこ?」
「ここは××××××ニ××ドラゴン××××」
私ははっとする。
だんしゃくさんからこの単語を聞くのはニ度目。
最初は聞き取れなかった。
でも、今は聞き取れた。
ドラゴンって言った!!…よね?
どこって聞いてなんでドラゴンが出てくるの?
私の言葉間違っていた?
それに数字のニって何?
私の頭の回転の鈍さに焦れただんしゃくさんがイラついたような表情を見せる。
どうしよう、怒らせたかな?
謝ったほうがいいかな?
ルキアと仲良くしている人なら嫌われたくないな。
…いや、それは無理な相談か。
頭が悪い無能な人間を嫌うなってそんな虫のいい話あるわけない。
こんな私を受け入れてくれたルキア達の心が異常に広かったのだ。
それに慣れてしまい私はなんて贅沢で我儘な人間になってしまったのだろう…
「みえた、しろ」
窓の外をだんしゃくさんが指差した。
釣られてそちらを見てみれば、大きな城が聳え立っていた。
ネズミーランドのお姫様城かと思いきや違う。
もっと大きくて…あれだ、魔法使いの少年が主人公の児童書に出てきた城に似ている!
映画にもなっていたから、よく覚えてる!
…話の内容は児童書なのにちっとも理解出来なかったんだけどね。
そうか、ルキアのお屋敷がある街には二つのお城があるのか…。
しかも、見えたと言っていたから、用があるのはあの城なのかも。
予想通り私達を乗せた馬車は城内へと入る。
迎え出てきたメイド達が私を見た瞬間平伏した。
「!!!!???」
なんで平伏!?
私は奴隷ですよ!?
…あ、私じゃなくてだんしゃくさんに平伏してるのかな?
それならわかる。
あー、びっくりした!
だんしゃくさんは慣れているのかメイドの平伏を気にも留めない。
「×××××××××××××」
「いいえ、×××ニ××××××」
横柄なだんしゃくさんに対して事務的にメイドの一人が言う。
また、数字のニが出てきた。
「しかし、きたないむすめだ」
「へいきです。ニはおまちです」
「わかった」
私の手をとり城内を突き進む。
もう少しゆっくり歩いてくれると助かるが、そんなこと頼まない。
必死に半ば駆け足で彼についていく。
そして、巨大な扉の前に着いた。
私達がその扉の前に立つと同時に押し開かれる。
あの時の城よりも豪華絢爛な場所だった。
しかし、その豪華さよりも目にいったのは最奥にある三つの椅子のうち真ん中を開けて座る二人の人物。
それは私がよく知る人間だった。
そんなはずはないと思った。
でも同じくらい、いて当然かとも思った。
何故ならあの時の大地震で私達は一緒にいたのだから。
紅い衣を纏った五十嵐さん!
青い衣を纏った日比谷さん!
二人が私を椅子の上から見下ろしていたのだ。