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炎竜王

上司五十嵐視点

英雄。

それは子供の頃に絵本の中で出会った俺の理想。

強きを挫き弱きを助ける男の中の男。

俺は絵本の中の英雄に出会い幼心に誓いをたてた。


俺は英雄になると。


英雄になる為に出来ることはなんでもした。

最初は棒切れを振り回してのヒーローごっこだった。

それが剣道になるのに時間はかからかった。

筋がよかったうえに努力を惜しまなかった俺はあっという間に強くなった。

英雄は剣を持って戦うイメージだったが、剣がなくても戦えたほうがよかろうと柔道を始めた。

これまた筋がよかったうえに努力を惜しまなかったので周りを驚かせるほど早く上達した。

筋肉バカでは真の英雄ではないと考え学問にも尽力した。

物覚えが良いほうだったうえに要領もよかったので成績はうなぎのぼりに上がった。

高校三年生の時に剣道国体で優勝、柔道でオリンピック選手候補に名前があがり、日本の天才秀才が集まるT大学へ進学を決めるというトリプル偉業を達成した。

俺はこの時、ようやく英雄を名乗るのに相応しい力をモノにしたと実感した。

しかし、世の中ままならないもので、英雄として相応しい力を身につけても使う時がなかった。

英雄が英雄であるには事件が起こるかもしくは困った人がいるべきである。

しかし、テレビでは毎日殺人にテロ、自然災害と痛ましい事件で溢れているのに、自分の周りでは起こらない。

更には人間誰しも大なり小なり悩みがあり困っているものだが誰も俺に相談をしたりしない。

俺に弱みを見せたくないのか、本当は悩んでいる癖に絶対に俺を頼ったりしなかった。

だから俺は英雄の資質を備えながらも英雄になりきれていなかった。

こうなったら、貧しい国々へ赴き真の英雄になるべくこの才能を振るうべきかと思いつめていた頃と就活が重なった。

海外かそれとも国内に留まり例えば警官にでもなるべきか…。

自身の進路を思い悩んでいる時、ふと目に止まった一つの求人広告。

ベンチャー企業のもので業歴ニ年という浅い企業だった。

広告を見て会社のホームページを見てこの会社もって後二年で潰れるなと直感した。

そして、これこそ自分の求める存在だと思った。

吹けば飛ぶような倒産寸前の会社を立て直したら?

それどころか一流企業にまで押し上げたら?

思い描いていた英雄になれるのではないだろうか。

頭の中で皆が俺に笑顔を向ける姿が思い描かれ、すぐにその会社にエントリーした。

そして、難なくその会社に入社してニ年で上場させた。

結果は出した。

社長は感謝してくれたし、社員も俺を尊敬の眼差しで見る。

確かに感謝も尊敬も欲しかった。

しかし俺が本当に欲しかった絵本の中の英雄に向けられたような心からの笑顔は結局貰えなかった。

何故かわからず鬱々とする日々。

そして更に俺を悩ますのが女が入れ替わり立ち代わり媚を売ってくるようになったこと。

英雄の隣にはヒロインが必要だとは俺も思う。

しかし、彼女達は違うと思った。

若い割りに金を稼ぐ力と自分でいうのもなんだが見た目がいいという好条件につられてやってきただけの女なのだ。

ヒロインはそういう所に英雄の良さを見出さない。

人間性に惚れるのだ。

見た目だけならヒロインに相応しい美女ばかりだったが、俺は彼女達を袖にし続けた。

英雄になれるだけの成果を出したのに報われない、英雄に相応しいヒロインが現れない、この二つのことで日々悩んでいた。

そして、入社五年目。

一人の女が入社する。

社長のコネで入社してきた女は歯並びが悪く、暗くて陰気で美人とは程遠い女だった。

外見が悪くても仕事が出来れば気にも留めなかっただろうが、驚くほど仕事が出来ず嫌でも目に入る日々。

それでも、もし俺の力で彼女が変われば今度こそ英雄になれるのではという考えが浮かび彼女の面倒を率先して見た。

しかし、何をやらせてもまともに出来ず、彼女のいい所が見つからない。

同じミスを繰り返す、ミスを隠蔽しようとする、いつまでたっても新人以下の女であり、英雄の資質を持ってしても彼女は変わらなかった。

最初は優しく教えていたが、次第に我を忘れる程怒鳴り散らしてしまう。

普段は英雄を意識して感情の赴くまま話したりしない寡黙に徹しているのに、彼女が相手だと感情が爆発する。

その度に英雄らしくないと反省するのだが、すぐに女は失敗するのでその反省がいかされることがない。

そうこうしているうちに女が社内で虐められていることに気づく。

これを助けたら英雄だと思い調査してみたら原因は俺だった。

俺という会社の人気者を独り占めしているように他者からはうつり、特に俺を狙う女豹からしたら女の存在は蛆虫並みに邪魔なようでかなり手酷くやっていた。

男も女が美人ならともかく不細工なもので、誰も助けはしなかった。

気づけばなんだかんだで社内で女と話すのは俺だけだった。

虐めに関して俺に相談してくれば助けてやったのにこいつも全く相談に来ない。

仕事は出来ない、俺しか頼る人間がいないのに頼ってこない、こんなにも俺の思い通りにならない人間は初めてだった。

そして、翌年一人の男が入社してきた。

こいつは凄かった。

天才とでもいうのか、何をやらしても俺並みの成果…場合によっては俺以上の結果を生み出す。

会社はこいつの入社によって海外支店を複数持つほどになった。

だが、俺はこの男が気に入らなかった。

最初はそんなことなかった。

初めて対等に語れる人間に出会えて嬉しくさえあった。

しかし、あの男が入社二年目であの女の直属上司に指名されてから風向きが変わった。

気づくとあの女と話してる。

いつもあの女と微笑みあってる。

仕事のフォローをしている。

叱る時も優しく言い含めるようにしている。

対する俺はあの男を直属上司にしてから俺があの女と話す機会は失われてしまった。

あの男が直属上司にさえならなければ、今頃俺があの女と話す唯一の存在でいられたのに!

何故こんなにもあの女と男が共にいるのがイラつくのかわからない。

しかし、あの男といることで女が虐められているのに気づき、これまたあの男に相談していないことを知った時は笑いがとまらなかった。

あの男のせいで虐められた直後に菓子を与えて俺なりに励ます。

これで笑ってくれたら、弱い人間を助ける英雄になれると思ったのに、全然笑わない。

次第に笑わない女にイラつき、小さな事から大きなこと、本当は不要なことにまで俺は男を介さずしかり飛ばすようになった。

そうすると直属上司である男が庇いにやってくる。

それがまたイラつく。

女と男は近すぎる。こいつを直属上司から外して俺が女の直属上司になろう。

そうすれば、もうこいつらが話す理由はなくなる。

もう、二人が話すところを見てイラつく理由もない。

そして今度こそこの女に笑って貰って俺は真の英雄になるんだ….!


そう誓ったある日。

この女がミスをした。

破棄してはならない書類を破棄してしまい、俺を含めて社内は上へ下への大騒ぎ。

まあ、ある程度のところでひと段落ついたので、女を叱る為に会議室に移動。

女と二人きりで俺だけで叱り飛ばしたかったが直属上司がいるのでそいつも同席する。

この女を俺が叱る時は呼んでもいないのに当たり前のように同席し、必ずこの女を庇うこの男は本当に目障りだった。

予想通り俺達の邪魔をする。

怒鳴り散らす俺、俯く女、女を庇う男。

俺が悪役みたいで面白くない。

この男がいるといつもこの図式になり俺の苛立ちは最高潮に達する。


しかし、その日はいつもと違った。


地震が起き、足元からビルが崩れたのだ。

とっさに女を庇った。

英雄だから弱い女を庇うのは当然なのだが、あの時はそんなこと思いもしなかった。

とにかく、俺はどうなってもよかったから女だけは守りたかった。

俺は女を抱きしめた。

長く一緒にいて女を抱きしめたのは当たり前だがこれが初めてだ。

甘い香りがして、そんな場合じゃないのに、女に酔った。

そして、漸く気づいてしまった。

俺はこの女が…!


目を閉じて何もかも失ってもいいから彼女を助けてくれと神に祈った。

それを聞き届けてくれたのか、それとも微笑んだのは悪魔だったのか。

気づいたら俺は男と二人森にいた。

女がいないことに愕然とした。

「そんな!?何故いない!?」

男が叫んで己の腕を見た。

俺も自分の腕を見た。

居たはずなのにいない。

例えようもない喪失感に襲われる。

ここがどこなのかもわからない。

なんで都会の高層ビルの最上階にいたのに森にいるのか。

「探すか…」

夢遊病患者のように俺達はフラフラしながら彼女を探した。

彼女がいないと俺は俺でなくなる。

いつの間にか彼女は弱い助けるべき対象から英雄のヒロインになっていた。

英雄はヒロインがいないと成り立たない。

英雄はヒロインを助けるもの。

誰が何を言おうとも俺は彼女を見つけ出し、そして助けてみせる…!!




こうして、俺は…いや、俺達は彼女の捜索を続けた。

二人がかりでは見つけられなかったので、人手を増やした。

その過程で気づけば国王になっていて『炎竜王』などと呼ばれるようになり、男と対をなすようになってしまったのは誤算だった。




そして俺達は三百年も女を飽きずに探している。

何故そんなに長く生きているのかわからない。

しかし、女を探すには生きていないとならないから丁度いい。

俺達が生きているのは、女に会う為。

それが成されるまでは死ぬわけにはいかない。


いつか必ず見つかると信じて俺達は探し続ける。

そして、ある日俺達がこちらに来た時と同じような地震が起きた。

もしかしたらと期待して俺達がいた森に人をやったが女は発見出来ず。

しかし、噂で別の国に暮らす傭兵崩れが竜の言語を話す女を拾ったときいた。

さらに、噂を集めれば、魔物との合いの子のような印があるという。

俺は確信した。

それは俺の女だと。

何故三百年の間が空いたのかはわからない。

しかし、間も無く会えるというだけで力が漲る。


あと少しで会える…!

俺が英雄である為に必要な女に!









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